台湾の新しい現代アートの拠点「桃園市立美術館」を訪ねて
新北市や桃園市という台北近郊に、相次いで新たな現代美術館が生まれている。プリツカー賞の受賞も記憶に新しい山本理顕が設計を手がけた桃園市立美術館の美術館棟(建設中)と桃園児童美術館、横山書法芸術館を紹介する。 【写真を見る】桃園美術館の空間をチェック!
デザインコンセプトは「遊べる展示館、緑化建築」
桃園市は、台北市のベッドタウンであり、大きな国際空港がある台湾の玄関口である。地域開発が進んでおり、豊かな自然に触れながら暮らしたい富裕層に向けた集合住宅が多く建設され、商業施設なども続々と生まれている。同市は、地域づくりにおいて文化的な要素は不可欠だと考え、美術館の開館を目指すことになった。メインの美術館棟と、MRT(地下鉄)の地上線路を挟んで向かい合う桃園市児童美術館(Taoyuan Children Art Center)、横山書法芸術館(Hengshan Calligraphy Art Center)の3館で構成する桃園市立美術館(Taoyuan Museum of Fine Arts)が計画された。 特徴のひとつは、独立した児童美術館の存在。これまで台湾では、美術館内に児童向け施設が設置されていることはあったが、独立した建物で児童美術館がオープンしたのは初めてのことだ。建築家の山本理顕はここで、メインの美術館棟と児童美術館を組み合わせ「The Hill/山丘」と題するプランを考案。環境との融和を目指し、緑豊かで大きな池を有する公園と、線路をまたいで反対側に位置する集合住宅との間に2館が向かい合わせに並び、緩やかな丘を形成するイメージだ。美術館棟は2026年の竣工に向けて建設中だが、完成予想図は以下のようなものだ。 子育て世代を多く受け入れるベッドタウンにおいて、子供たちのクリエイティビティを育むことは重要なポイントだ。外の公園で池の周りを歩き、緩やかな丘にたどりついたらそこには開口部があり、中に入ってみると遊びと学びの空間が広がる。そんなイメージで設計された美術館内では、アートを通して街を探検しようというテーマが設けられている。 ■台湾は「書法」、韓国は「書芸」、日本は「書道」 広く美術全般を扱うメインの美術館に加え、書にフォーカスした横山書法芸術館を設置したことにも注目したい。伝統に目を向けること、アジアでの文化的な影響関係を考察すること、長く受け継がれた技から生まれる同時代のアートを世界に発信すること。今後の意欲的な取り組みに期待を抱かせるこの美術館では現在、韓国国立現代美術館との共催で、「美術館の『書』:韓国近現代書芸展(美術館裡的「書」:韓國現當代書藝展)」が開催されている(2024年10月21日まで)。 書は芸術か、という長らく韓国で議論される問いをともに考えたいという動機から、共催が決まった。ハングル以前・以後を展望するオーセンティックな書の世界に始まり、日本で「もの派」作家としても馴染み深い李禹煥の作品や、文字表現を切り分けてコラージュしたような抽象絵画と書を融合させた作品、デザインに落とし込まれた書の表現など、現代アートやデザインとも接点を持つ作品が一堂に会する。 ■書をモチーフにした建築も秀逸 横山書法芸術館の建築は、建築家のパン・ティエンイ、ランドスケープデザイナーのウー・シュユアン、照明デザイナーのロイ・ゼンによって手がけられた。東洋のミニマルな書にインスパイアされ、墨、硯、水という要素を建築設計に反映。光の移ろいによって白と黒の作品が表情を変える様子が空間に具現化する。展示を楽しんだあとには、ゆっくりと建物を探訪する楽しみが待っている。 台北から新台北を経て桃園へ。台湾北部でアートを味わう旅を楽しんでみてはいかがだろうか。東洋の伝統的な手法から現代的な表現への展開を、日本で楽しむのとは異なる形で味わうことができるはずだ。 ■桃園市立美術館 Taoyuan Museum of Fine Arts(2026年開館予定) ■桃園市児童美術館 Tayuan Children’s Art Center 住:No. 90, Sec. 2, Gaotie S Rd., Jhongli Dist., Taoyuan City TEL:+886 3 2868668 ■横山書法芸術館 Henghan Calligraphy Art Center 住:No. 100, Daren Rd., Dayuan Dist., Taoyuan City TEL:+886 3 2876176 URL:https://tmofa.tycg.gov.tw/
文と写真・中島良平 編集・岩田桂視(GQ)