性的マイノリティーの人が生きやすい環境作り 企業ができることは?
■企業の取り組みは…
次に企業の事例報告のセッションでは、トランスジェンダー当事者でもあるJR東日本の佐川海氏が、職員用の休養室は、(大部屋ではなく)現在はホテルタイプ(個室)が整備され、制服も男女の性差がないと報告。同性カップルも社内制度適用の対象になると説明した上で、「制度があるのは嬉しいが、申請時にカミングアウトする必要がある。システムとして難しいだろうが、カミングアウトが少なくて済む仕組みやカミングアウトを壁と感じないような風土作りをしてもらえると当事者としてはありがたい」と述べました。 dentsu Japan DEIオフィスの杉山優氏は当事者として、社内制度を同性カップルにも適用すると聞いた時は「涙が出るほど嬉しかった。でも上司や同僚に隠すため、感情を出せず複雑な気持ちだった」と当時の思いを吐露。「初めて自分の存在を認知してもらえたと感じた。この会社にいてもいいんだと初めて思えた」と述べ、制度創設が心理的安心性にもつながると語りました。 そして取り組みとしては、社内研修で当事者従業員に登壇してもらうことを大切にしていて、「うちの部署には、LGBTQの人はいない、などと言われるが、周りに当事者がいるんだと可視化されると一気に自分事になる」と説明しました。 そして「企業は性的マイノリティー向けに制度を作っても利用者が少ないと嘆くが、めげないでほしい。今の日本ではオープンにできない空気があるし、パートナーが親にカミングアウトしていないなど、様々な事情がある。でも、制度ができることは、経営層からの大きなメッセージであり、当事者には励みになる」と訴えました。 P&Gジャパンの市川薫氏は、性的マイノリティーに特化せず、汎用性のある制度で柔軟に対応していると報告しました。たとえば、性別適合手術を受けるので休むというよりは、普通に休暇がとれるようにしている、とし、上司に相談しやすい環境作りのため、管理職への研修などソフト面の充実を計っているということです。 さらにアライ(性的マイノリティー当事者ではないが支援する人)を増やすため、社員研修の際「LGBTQの人は左利きと同じぐらいの割合でいる」などと伝えるとともに、研修後のアンケートに「アライとして活動に参加したいか」という欄を作ったところ、びっくりするほど参加希望がいたということです。 そして、社内でアライが自発的に色々なプロジェクトを立ち上げ、業務の一環としておこない、人事評価にもつながると述べ、ボランティアではなく業務としているのは、会社の経営戦略として取り組んでいるからだ、と解説しました。 一方、dentsuではアライと当事者の活動は業務とはしておらず、最近はスケジュール表が部内に共有されるため、活動のグループ名を、LGBTQ関連とわからないものにするなど配慮しているということです。JR東日本でも、業務外で当事者が集まる機会を作っているが、開催時期を公表すると、そのタイミングで休みを申請した場合、職場の人に知られる恐れがあるため、申し込んだ人にのみ日程を伝えているということです。