死ぬまでに食べたい「ぼんごのおにぎり」、2代目店主の物語…古里の味・赤い糸・弟子と「思い」は世界へ
胃袋を完璧につかまれた由美子さんは、それから毎夕、仕事帰りに通った。店で2個食べ、4個持ち帰る。通い詰めているうちに、ぼんごの店主で、後に夫となる27歳年上の祐(たすく)さんが気にかけてくれるようになり、2人は76年に結婚した。
しばらくして、病気で倒れた職人の代打で由美子さんも店に立ち始めた。常連客からは「俺が代わって握ろうか」とバカにされた。でも、その言葉で由美子さんの負けず嫌いに火が付いた。全力でおにぎりと向き合う日々が始まった。
行列の絶えない人気店に
「ぼんご」に24歳で嫁いだ由美子さんは半世紀かけて、おにぎりを進化させてきた。
「冷めてもおいしいおにぎりが食べたい」。1980年代、客の一言でコメ探しを始めた。たどり着いたのは、由美子さんの出身地・新潟の岩船産コシヒカリ。粒が大きいのが特徴で、冷めてもうまみが損なわれなかった。
そんなふうに客の意見に耳を傾けて工夫を重ねるうちに、具の種類は増えて57に達し、組み合わせもどんどん楽しめるように。こだわり抜いた味が評判を呼び、気付けば店は行列の絶えない人気店になった。
休む暇もないままおにぎりを握り続けた日々。ありがたい反面、営業後は疲れ切って倒れるように眠り、仕込みが終わらずに開店できない悪夢で目が覚めたことも。だから12年前、初代店主の夫が亡くなった時は、店を畳むことも考えた。
そんな由美子さんの背中を後押ししたのは、心動かされた出会いの数々だった。
ある日、末期がんの夫を看病する妻が来店した。夫に食べたい物を尋ねると、「ぼんごのおにぎり」と答えたという。「この日のために頑張ってきたんだ」と思ったのと同時に気付いた。おにぎりを通じて人を思い、人の心を結ぶ。それが、やりたいことなんだと。
気配りと手際の良さに驚き
由美子さんの元には、「修業したい」という依頼が絶えない。
オーストラリアでの出店が夢という小瀬(こせ)茉莉花さん(28)も、そんな「弟子」の一人で、昨年から働く。