死ぬまでに食べたい「ぼんごのおにぎり」、2代目店主の物語…古里の味・赤い糸・弟子と「思い」は世界へ
10月の平日、午前8時20分。雨にもかかわらず、東京・大塚の老舗おにぎり店「ぼんご」前には、40分後の開店を待つ客が並んでいた。スーツケースを持った外国人観光客や女性の1人客など客層は様々だ。 【グラフ】商業用コメの輸出量と1世帯あたりのおにぎり類の支出額
「朝早くからありがとうございます!」。女将(おかみ)の右近由美子さん(72)が、開店前から並ぶ客に笑顔であいさつして回った。傘を持っていない客を見つけると、傘を渡す気配りも見せる。
2022年10月、旧店舗から徒歩1分の今の場所に移転。カウンター9席の店内は、開店から午後9時の閉店までほぼ埋まり続ける。
57種類あるおにぎりの具は、サケや梅などの定番に加え、牛すじや卵黄しょうゆ漬けといった珍しい具材も。1個のおにぎりに2種類の具を入れるのが人気で、組み合わせは1600通り近くもあるから、迷ってしまう。一般的なおにぎりの1・5倍となる約180グラムのおにぎりは、ふんわり握られ、口の中でほろっと崩れるのが特長だ。
ぼんごの創業は1960年。亡き夫の祐(たすく)さんが、「老若男女が入れる店にしたい」と始めた。当時は常連客だけの店が、今では国内のみならず、海外からも客が押し寄せる超人気店に。店の成長は、客の胃と心を満たし続けてきた女将の存在なしには語れない。
27歳年上の初代店主と結婚
おにぎり店「ぼんご」と、由美子さんの出会いは偶然、いや運命だった。
由美子さんは新潟市で3人姉妹の真ん中に生まれ、厳しい父親に育てられた。高校卒業後は地元の燃料会社に就職したが、東京への憧れが膨らみ、1972年2月の給料日に家出同然で上京した。
たどり着いた上野駅は雪が降っていた。駅前の喫茶店で同郷の店長と出会い、運良く住み込みの仕事が決まった。親元を離れての生活は初めて。すぐに母親の手料理が恋しくなった。
そんな時に友人が連れ出してくれたのが、ぼんごだった。おにぎりとナスのお新香――。どこかホッとする懐かしい味に、実家のことを思い出していた。