フォーミュラEシーズン11開幕直前。ニューマシン『GEN3 EVO』の新要素と優勝候補をおさらい
12月7日、2024/2025年ABB FIAフォーミュラE世界選手権の“シーズン11”が、ブラジルのサンパウロ市街地コースにて開幕する。 【写真】『GEN3 EVO』で新たに搭載された急速充電のプラグ口(CSS) シーズン11は新型マシン『GEN3 EVO』が導入されるため、各マニュファクチャラーの新開発ハードウェアが2年ぶりに投入されることによる多くの変化が予想される。まずは、その変更点について振り返ってみたい。 ■四輪駆動の制御がシーズン11のカギに フォーミュラEとFIA国際自動車連盟の専門家によって開発された『GEN3 EVO』は、予選やアタックモード時に最高出力350kW/470bhpを発揮し、公表されたトップスピードは200mph(約321km/h)となる。また、0~100km/hの加速にかかる時間は1.86秒で現行F1マシンよりも30%高速だという。 こうしてハイパワーを備えた『GEN3 EVO』の最大の特徴は、四輪駆動システムだろう。この四駆は、これまで『GEN3』が前輪に搭載していたエネルギー回生モーターに駆動も担わせることで可能となるシステムで、その使用はデュエル予選、スタート、アタックモード時に限られる。 この四駆システムについては予選時と決勝時で要点が異なり、予選ではエネルギーマネジメントを考慮する必要がないため、最速を求める駆動バランスの最適化がポイントに。一方決勝では、共通部品のフロントアクスルと、マニュファクチャラーごとの開発部品であるリヤアクスルとでエネルギー効率が異なるため、ラップタイムの速さとエネルギー効率のバランスが重要になる。 そして、『GEN3 EVO』においてもうひとつの特徴的な新要素としては、ピットでの急速充電が挙げられる。 『GEN3』時代に導入が検討されていたこのシステムは、当時こそ実装が見送られたものの、11月のプレシーズンテストでは全チームが実際に使用してシステムを確認済みだ。シーズン11では、いよいよ決勝レース中の実施も見込まれている。 現在は『ピットブースト』という名前で呼ばれているこの急速充電。日本ではCHAdeMOという充電器規格が一般的だが、『GEN3 EVO』では欧州で普及している急速充電システムCCS(Combined Charging System)が採用されている。 関係者によれば、現在は約4kWhの充電が34秒間の間に行われるというもので、アタックモードの起動とは区別された給電ルールになる見込みだそうだ。こちらの詳細は、近い将来のWMSC世界モータースポーツ評議会で議論される予定であり、実践導入は第3/4戦のジェッダ・コーニッシュ・サーキット(サウジアラビア)になると噂されている。 ■勢力図キープか、下剋上か 2014/2015年シーズンから始まったフォーミュラEは、これまでに『GEN2』、『GEN2 EVO』、『GEN3』と幾度となく新型マシン投入をし続けており、シーズン11ではさらに速さを増した『GEN3 EVO』を迎える。 これまでの10シーズンのうち、大きなハードウェア・アップデートが実施されたシーズンからは、きまって勢力図がリセットされており、いよいよ開幕するシーズン11でも転換期に突入することになるかもしれない。 まず、『GEN3』時代のチャンピオンシップにおいては、ドライバーズタイトルをポルシェのマシンに乗るジェイク・デニスやパスカル・ウェーレインが獲り、チームズタイトルはジャガーのマシンが手中に収めていた。実際に各レースにおいても、一貫してバッテリー残量で余裕を持っていたのがこの2メーカーで、エネルギー効率の競争において直近2シーズンをリードした。 その次にシーズン10で多くの勝利を挙げたのはニッサンで、ニッサン・フォーミュラEチームが2勝、カスタマーチームのマクラーレンが1勝と計3勝を飾っている。 ここで、戦局を占うヒントとして11月にスペインのハラマ・サーキットで行われたプレシーズンテストでの結果を見てみたい。 ■フォーミュラEシーズン11 プレシーズンテスト各セッション結果 セッション/トップタイム選手/トップタイムチーム 1/アントニオ・フェリックス・ダ・コスタ/タグ・ホイヤー・ポルシェ・フォーミュラEチーム 2/ジェイク・ヒューズ /マセラティMSGレーシング 3/マキシミリアン・ギュンター/DSペンスキー 4/デイビッド・ベックマン/キロ・レースCo 5/ニック・デ・フリース/マヒンドラ・レーシング 6/ミッチ・エバンス/ジャガーTCSレーシング 全体トップタイムはジャガーのエバンスが記録しているが、プレシーズンテストでは全セッションでトップのマニュファクチャラーが分かれるという混戦模様となった。 8人の王者経験者を含め、多くの実力者はテストで爪を隠していたことはもちろんだろうが、全体タイムで見れば、ジャガー(ミッチ・エバンス/ニック・キャシディ)とポルシェ(パスカル・ウェーレイン/アントニオ・フェリックス・ダ・コスタ)らのパフォーマンスは引き続き高いようで、開幕戦から優勝を争うことは間違いなさそうだ。 ただ、その2大ワークスに割って入り、他にも各セッションで一貫して上位につけていたのが、ERTを買収して新規参入を開始するキロ・レースCoだ。 マシンはポルシェで、ドライバーはダン・ティクトゥムとデイビッド・ベックマンで優勝未経験のふたりという体制だが、好タイムを連発していた様子には期待が持てる。 そして、われらが日本国籍チームのニッサン・フォーミュラEチームも、新体制でのオペレーションが徐々に整い始めたシーズン10では、オリバー・ローランドの高いエネルギーマネジメント技術も武器に2勝を挙げた。 プレシーズンテストでは、カスタマーのマクラーレンも含めて上記の注目チームに続いており、『GEN3 EVO』でパワートレインの効率向上が伴えば、チーム復帰のノルマン・ナトとともにシーズン11で選手権上位を競うことも不可能ではないだろう。 そして最後に、シーズン11がフォーミュラEデビュー年となるローラ・ヤマハABTフォーミュラEチームについて。日本のヤマハ発動機がパワートレイン開発を担うこちらのチームは、シーズン3王者のルーカス・ディ・グラッシと、FIA F2で速さを見せてきたゼイン・マローニのふたりを起用してシリーズ挑戦を開始する。 日本企業のヤマハとしては、初のホームレースとなるシーズン中盤の第8/9戦東京E-Prixがターゲットとなるはず。まずはシーズン序盤戦で、新チームでのオペレーション面においてトライアンドエラーを繰り返しながら、徐々にパフォーマンスを向上していくことがポイントになるだろうか。 ついに迎えるシーズン11開幕戦は、ブラジル・サンパウロのアウトドローモ・ホセ・カルロス・パーチェ(インテルラゴス・サーキット)を舞台に、12月7日に開催される予定だ。 [オートスポーツweb 2024年12月05日]