“自己満”回顧録を出したメルケルに下される辛辣な評価、「ドイツを破滅させた」「避ける、遅らせる、先送りする」
■ 「他に選択肢はない」 しかし、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大はプーチンを刺激しても、民主主義や基本的自由を尊重するEUの連合協定は大丈夫とばかりにウクライナとの締結を急いだことがヤヌコビッチ政権崩壊とプーチン介入の引き金になったことは軽率のそしりを免れないだろう。 ドイツの新興政党「ドイツのための選択肢」(AfD)は、メルケル氏がギリシャの粉飾財政に端を発した欧州単一通貨ユーロ圏の欧州債務危機で救済する「他に選択肢はない」とユーロ圏の財政共有化に踏み切ったことに反発して誕生した。 15年の欧州難民危機でドイツ国境を開放して100万人を優に超える難民を受け入れたことが「ドイツのための選択肢」を反ユーロ政党から移民や難民をやり玉にあげる極右政党として浮揚させた。AfDは今やドイツで2番目に支持される政党となった。 メルケル氏は英国のEU離脱について「ドイツと異なり、英国は04年のEU拡大後、新規加盟国からの労働者流入に関し移行期間を利用していなかった」と指摘する。移動の自由により制限を設ける英国の要望に背を向けたことが英国をEU離脱に追いやる最後の一押しとなった。 ■ トランプ氏は不動産業者のようにすべてを損得で見ていた 難民を受け入れたメルケル氏の判断は人道的には他に選択肢はなかったが、ドイツ国民には受け入れられなかった。トランプ氏は不動産業者のようにすべてを損得で見ていたと回顧録で結論づけたメルケル氏は政治的遺産を失い、トランプ氏は逆に民主主義の競争で大勝利を収めた。 それが何を意味するかはまだ、誰にも分からない。 【木村正人(きむら まさと)】 在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
木村 正人