“自己満”回顧録を出したメルケルに下される辛辣な評価、「ドイツを破滅させた」「避ける、遅らせる、先送りする」
■ 「停滞と自己満足と機会喪失の16年」 英紙タイムズのベルリン特派員オリバー・ムーディー氏は12月7日付で「独国内外のリベラル派がメルケル首相を『欧州の女王』『自由世界のリーダー』と称えた資質、科学技術主義、妥協の達人、ルールに基づく世界秩序と開かれた国境の提唱は今では古臭く感じられる」と書く。 ロシア、中国と西側の対立は一段と深まり、10月、ドイツの自動車生産は前月より1.9%減少、エネルギー供給も8.9%縮小した。独製造業部門の生産高は年間ベースで4.5%も減少している。20年以上ぶりの2年連続リセッションに陥るリスクが現実味を増す。 「ドイツは『欧州の病人』と描かれるようになった。以前はうらやましいほど安定していたメルケル氏の16年が今では停滞と自己満足と機会喪失の時代と見なされている」(ムーディー氏)。ロシアから安い資源を仕入れて、自動車や機械を中露に輸出する成功モデルは破綻した。 英誌スペクテイターに寄稿(12月7日付)したレオン・マンガサリアン氏は「メルケルはいかにドイツを破滅させたか。回顧録は自らの遺産を正当化しようとする空虚な試みだ」「在任中にドイツが直面した戦略的問題の多くについて彼女は大間違いをした」と手厳しい。
■ 「避ける」「先送りする」ことを「メルケルン」と呼ぶ 「メルケルはドイツ再統一を成し遂げたヘルムート・コール(首相在任1982~98年)でもなければ、東欧諸国との関係を正常化したヴィリー・ブラント(同69~74年)でもない。メルケルの遺産は彼女の決断のほとんどが凡庸であったということだ」(マンガサリアン氏) マンガサリアン氏は、メルケル氏は結局のところ有権者に不人気な経済改革や社会福祉改革を徹底的に避けた大衆迎合的な政治家だったと総括している。実際、ドイツでは「避ける」「遅らせる」「先送りする」ことを、皮肉を込めて「メルケルン」と呼ぶ。 第一次大戦でドイツ帝国、第二次大戦でナチスのアドルフ・ヒトラーと戦い、EU離脱交渉でメルケル氏に体よくあしらわれた英国にドイツや彼女をよく言う人はあまりいない。他の取材で忙しかったとは言え、筆者もロンドンで開かれたメルケル氏の出版講演会を見逃してしまった。 メルケル氏はプーチンを信頼していなかったが、ウクライナも真剣に付き合う相手とは見ていなかった。ウクライナ支援のため自らの政治資産をすり減らしたジョー・バイデン米大統領と早々にウクライナ戦争に見切りをつけたトランプ氏のどちらが賢明かはまだ分からない。