「闇バイト」「トクリュウ」事件で「成果を出せない警察」…実力を失う「警察組織」への強烈な不安 【出でよ、令和の「鬼平」】
警察に覚悟はあるか
今回の「闇バイト」対策で警察庁は、高市早苗前経済安保相をトップにいただき、同庁出身の葉梨康弘元法相が会長代理として黒子役を担った自民党の「治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会」を通して、石破茂首相周辺にレクチャーをしたようだ。 冒頭の「仮想身分捜査」(=「雇われたふり作戦」)容認は、警察庁の思惑通りだったのかもしれない。ただ、警察庁が「闇バイト」の首謀者であるとする「トクリュウ」への突き上げ捜査(末端から捜査を始め、徐々に中枢に近づく捜査)をおこなうという本来の目的に照らすと、いささか覚悟が足りないように見える。公安捜査、麻薬捜査においては、S(協力者)の投入や捜査員自らの潜入など、法律ぎりぎりのリスクを抱えながらオペレーションを貫行しているのだから。 しかも闇バイトを重視しすぎるあまり、リスクの高いユーザーのアカウント開設を防止するなどのSNS規制で犯罪を未然に防ぐといった手立てをとると、肝心の犯罪グループと直接対峙するチャンスを自ら奪うことになる。結局、警察当局が率先してリスクを取らなければならないのである。 「平成」の日本警察は、「昭和」の戦後警察をリードしてきた公安・警備警察に代わって、刑事警察がその主導権を握ってきた。しかし、安倍政権下で創出された「官邸ポリス」(=官邸内で警察行政を牛耳る官僚たち)による「失われた10年」は、刑事警察人脈にとっては、「不連続」の連続であった。 そしてその顛末が、警察スキャンダルから裁量捜査による不作為までである。「令和」の警察は難問噴出で自壊寸前の様相を呈している。「失われた10年」の間の、人材枯渇は深刻である。 池波正太郎の時代小説『鬼平犯科帳』は、警察官に人気がある一冊である。盗賊から「鬼の平蔵」と恐れられた、実在の火付盗賊改方長官・長谷川平蔵の捕物帳だが、五郎蔵、おまさ、彦十といった密偵を差配する「情報力」と、巧みな「戦略眼」は、与力・同心らノンキャリアから「信頼」を重ねた。そんな平蔵の立ち位置は、現代のキャリア官僚にも通じるものがあるようだ。 そして何よりも、即時に捜査対象を斬り捨てることも厭わない「覚悟」。 トクリュウと相見える令和の「鬼平」に果たしてそれがありや無しや。
川邊 克朗(ジャーナリスト)