「闇バイト」「トクリュウ」事件で「成果を出せない警察」…実力を失う「警察組織」への強烈な不安 【出でよ、令和の「鬼平」】
チャイニーズ・マフィアvs.警察
2000年には東京や大阪を中心に、中国人の窃盗グループによるものと見られる、特殊な工具を使って空き巣に入るピッキング窃盗事件が激増した。しかし、日本警察の対策は大きく遅れた。 こうした「黒社会(チャイニーズ・マフィア)」や「黒戸口(不法滞在)」は、巧妙に日本人社会に溶け込み、見えない存在となっていた。それゆえ、不法滞在者の一部そのものが外国人犯罪の温床と見られがちであったが、その内実を見れば、外国人犯罪急増の背景には黒社会の存在が大きく影を落としていたのである。 当時の日本警察も、「たかが外国人犯罪……」という程度の認識だったのであろう。各々の事件という「点」の一つ一つを見ていたのかもしれないが、それが結び付いて「線」となり、「面」となって組織性を高めていく犯罪組織の存在などには、思い至らなかったようだ。 なぜなら、日本の警察にとって犯罪組織といえば、山口組を中心とする日本の暴力団組織が最大にして唯一のものであったからだ。そしてこのような無秩序状態の出現は、日本の治安に大きな影響を与えることになるが、じつはその予兆はすでにあった。 1998年8月10日、東京・新宿の歌舞伎町の中国料理店「快活林」を、青龍刀やサバイバルナイフで武装した上海系マフィアのグループが襲撃した。陝西省出身の中国人店長は全身血だらけになりながらも一命を取り留めたが、北京出身の従業員と、客として来ていた上海出身の男が全身メッタ切りにされて絶命した。 この事件の前にも中国人同士の殺人事件が相次いで起きていたが、いずれもマフィア間の勢力争いがその原因であった。彼らはやがて全国に分散して地方都市の繁華街を根城に犯罪インフラを次々に構築した。さながら彼らの「戦略的飛地」が生まれたかのごとくである。この突出した緊急事態の前に、すっかりモラトリアム化した日本警察はまったく無力であった。 小泉純一郎内閣になって、内閣官房が主宰する勉強会で、チャイニーズ・マフィアが絡む国際組織犯罪をテーマに、チューター役を務め、若干の対応策を提言したことがある。 法体系の大本である刑法や刑事訴訟法の改正では時間がかかりすぎるため、緊急性をかんがみ、捜査期間や対象を組織犯罪に絞った時限立法化をはかり、潜入捜査、通信傍受から司法取引まで、捜査現場が使い勝手が良いものにするという提案をした。得てしてこの筋の議論では、人権への配慮や捜査権力の裁量権拡大への懸念などを理由に、法案は雁字搦めにされる。このときもやはり時限立法は困難であった。