「闇バイト」「トクリュウ」事件で「成果を出せない警察」…実力を失う「警察組織」への強烈な不安 【出でよ、令和の「鬼平」】
「裏社会」のギャング化
30年前、私がテレビ局の警視庁担当のキャップをしていた当時に起きたオウム真理教事件における、サリンという「見えない敵」への恐怖にも相通じるものがあるように思われるが、現役の警察官僚の脳内では、いかにも生煮えな「トクリュウ」という考え方が漂流するばかりで、いまいち実効的な捜査にはつながっていないようだ。 このように、振り込め詐欺などの「特殊詐欺」が変異し、凶暴化していった背景には、刑事警察(=犯罪捜査を担う警察の部門)の「暴力団壊滅」幻想が招いた「裏社会」のギャング化がありそうだ。 刑事警察は、汚職や大型経済事件等担当する、警視庁の「捜査二課」を経るのが主流である。キャリア官僚にとって捜査二課は、刑事局長、警察庁長官へとステップアップしていくための「出世コース」だ。 これに対して暴力団捜査を担当する暴力団対策課や(各地の警察の)捜査4課は傍流である。暴力団犯罪に隣接する、「銃器・薬物捜査」に至っては、警察内部の組織再編やターム替えでさらに後景へ追いやられている。 だが、じつはこれらの部局には重要な役割がある。「表社会」と「裏社会」をわかち、その間に明確な線を引くこと、あるいは、両者がどのように分割されているかをはかるための重要な指標となることである。もっとも、現実は佐川急便事件のように、政治家とヤクザが交錯する疑獄事件に発展したように、表社会と裏社会は、「共存共栄」を図ってきたようだが、ともあれ、かつて暴対課などは「表」と「裏」の線引きに重要な役割を果たしてきた。
「裏社会」が「表」に浸み出す
ところがそれが、1991年のバブル経済崩壊後、米国資本の圧力に屈して暴力団対策法という新法が施行されると、裏社会も表社会によって次第に分断されてゆき、最大組織山口組の「一強時代」がやがて内部対立から分裂へ、そして縮小・衰退過程に入った。 その余勢を駆って、刑事警察は北九州市に拠点を置く、異端の暴力団「工藤会」の最高幹部らを脱税等の「奇策」で次々と逮捕し、組織崩壊に追い込むなど、刑事警察の「暴力団壊滅」が成功したかに見えた。 しかし、それは一方で、「裏社会」のボーダーレス化の始まりだったようだ。それまでヤクザの組組織に管理されていた末端の不良組員らが組織防衛に入った暴力団組織からリストラされて、「半グレ」としてアウトロー化した。 彼らは、暴走族やチーマー出身の若者たちを吸収しながら犯罪組織化して、表社会に逆襲するという、「パラドックス」(警察関係者)を生んだ。そして特殊詐欺に象徴される、「手っ取り早いカネ儲け」が彼ら彼女らのモットーとなった。それは今も変わらぬようだ。 この暗澹たる「風景」は、私にとってまさにデジャヴであった。