退職後「不幸になる人」と「幸せになる人」の決定的な差、ハーバード大の研究で判明
アマービレ 実は私も6年前、60代後半のとき、ローレンスと同じように、「娘や孫の近くに住みたい」と思い、娘の家族が住んでいる町に引っ越しました。そこは、これまで一度も住んだことのない町で、友人も知り合いもいませんでした。 ローレンスとの違いは、引っ越した直後から、近所の人たちに挨拶したり、教会に行ったり、コミュニティー活動に参加したりして、意識的に新しい友人をつくったこと。それから、引っ越した当時、完全に仕事を辞めていなかったことです。そのため、生活のリズムはそれほど崩れませんでしたし、同僚との付き合いも、そのまま維持することができました。 確かにローレンスにとって、60代になってから、30年以上住んだ町から全く新しい町に引っ越して、新しい生活を始めるというのは、かなり労力のいることだったと思います。でもそう決めたのであれば、新しい活動や人脈づくりを主体的に始めるべきだったと思います。 ローレンスは退職後の生活を振り返って、次のように語ってくれました。「こんな波乱万丈な経験をする必要は全くなかった。新しい町に引っ越したときに、すぐに新しい仕事を始めたり、新しい人脈を築いたりすればよかった。そうすれば、もっと早く今のような安定した生活を構築できたのに」と。 ここでの教訓は「退職したら、見知らぬ町に引っ越すな」ではなく、「引っ越すのであれば、積極的に近所の人やコミュニティーの人と交流しなさい」ということ。退職後、どれだけ幸せに過ごせるかは、人間関係によるところが大きい。これが、ローレンスの事例が教えてくれたことです。 テレサ・アマービレ Teresa Amabile ハーバードビジネススクール名誉教授。専門は経営管理論および心理学。およそ45年間にわたって、職場環境が社員の創造性やモチベーションに与える影響を研究。数多くの受賞歴があり、世界で最も影響力のある経営思想家ランキング「Thinkers50」に過去2回、選出。2024年には殿堂入りを果たした。同年、教職を引退。現在は、心理学および社会学の観点から、人々がどのように引退生活へと移行していくのかをテーマに研究。主な著書に『マネジャーの最も大切な仕事――95%の人が見過ごす「小さな進捗」の力』(英治出版)。最新刊は『Retiring: Creating a Life That Works for You』。 佐藤智恵(さとう・ちえ) 1970年兵庫県生まれ。1992年東京大学教養学部卒業後、NHK入局。ディレクターとして報道番組、音楽番組を制作。 2001年米コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、外資系テレビ局などを経て、2012年、作家/コンサルタントとして独立。主な著書に『ハーバードでいちばん人気の国・日本』(PHP新書)、『スタンフォードでいちばん人気の授業』(幻冬舎)、『ハーバード日本史教室』(中公新書ラクレ)、『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』(日経プレミアシリーズ)、最新刊は『コロナ後―ハーバード知日派10人が語る未来―』(新潮新書)。講演依頼等お問い合わせはhttps://www.satochie.com/。
佐藤智恵