処理水放出きっかけに混乱したホタテ市場、体力削られる加工業者「これほどの影響は想定外」
同じホタテなのに…
こうした影響をうけて、ヤマナカも東京電力に対して賠償の請求に向けた手続きを始めたというが、1年を迎えようとしても一向に話が進んでいないと千葉社長は眉をひそめる。確かにヤマナカは、中国の禁輸措置による「直接の被害者」ではないかもしれないが、処理水の放出をきっかけに混乱した市場によって影響をうけた企業であることは確かだ。ただ、東京電力が示す賠償の基準と照らし合わせれば、ヤマナカがその対象かどうか際どい状況におかれている。 「我々加工業は、相場観に左右されるんです。ホタテの流通業者であるのに、一方の地域の漁業関係者には風評被害がある、一方の地域の漁業関係者には風評被害がないとなれば、その差はいったいどんなところにあるんだろうと思ってしまう。」 ヤマナカは月に1度、東京電力の担当者と賠償に向けた話し合いを進めているが実現には至っていない。中小企業にとって、売り上げが減っているにもかかわらず、賠償開始までの時間が長くなるというのは、企業の存立にかかわる致命的な問題だ。 「賠償がある、ないの判断1つで大きく会社のかじ取りが変わってしまう。どのように対応していただけるのか、本当に早く姿勢を示して欲しい。」
国や東京電力には柔軟な対応を
こうした問題に対して、東京電力に問い合わせたところ、処理水の海洋放出に伴う風評被害の賠償請求のうち「大半が外国政府による輸入停止措置等に関する被害である」と回答があった。輸出先としては中国・香港、対象品目ではホタテ・ナマコに関してのものが多いという状況で、これまでに180件あわせて約320億円の賠償を行ったという。東京電力は賠償の基準を示し、個別のケースも含めこれまで対応しているが、市場の原理は複雑だ。とりわけ中国がもたらした市場での混乱は大きい。賠償の基準を満たさずとも処理水の放出がきっかけで影響を受けたとなれば、賠償の在り方や国の支援も含め柔軟に対応しなければ、賠償の基準から漏れた企業や漁業者は立ち行かなくなる恐れがある。