処理水放出きっかけに混乱したホタテ市場、体力削られる加工業者「これほどの影響は想定外」
放出から1年…県外の漁業関係者の現在地
処理水の海洋放出から1年。これまでのところ、周辺の海域や水産物に問題のある値は出ておらず、放出計画も順調に進んでいるなか、風評被害の影響を受けた「県外の漁業」の現在地はどうなっているのか。 世界三大漁場とも呼ばれる「三陸・金華山沖」を抱える宮城県石巻市にある石巻漁港は、日の出と同時にたくさんの船が行き交い、活気に包まれている。 「思った以上に風評被害は感じないという形ですね。売る努力をされているということで魚もそれなりに値段を付けて買ってもらっているからありがたい」。 放出からしばらくは魚の価格が下落するなどの影響はあったというが、放出から1年が経ちそれほど大きな影響はないという。一方で、それはほんの一握りの魚種を扱う漁業者に限ったことだとある漁師は話す。 「業種によっては被害を受けているところもある…」
処理水に翻弄された水産加工業
石巻漁港から東に3キロ離れると、ノリやカキ、アサリなどの養殖が盛んな入江「万石浦」が広がる。その万石浦を臨むところに、水産加工業で海外への輸出を手掛ける「ヤマナカ」がある。 東日本大震災による津波の被害を乗り越えて、いまも海辺で営業を続けている。 「ホタテは我々加工の屋台骨を支える大切な商品です」 十数人のスタッフが地元で水揚げされたホタテの貝殻を手際よくむいている加工場でそう話してくれたのは社長の千葉賢也さん。ヤマナカは、ホタテはもちろん、カキやホヤの冷凍品や加工品を、世界13か国に輸出している。 ヤマナカはこれまで、処理水をめぐって翻弄されてきた。 2021年に菅政権が海への放出方針を決定すると、当時まとまっていた香港との取引が白紙になったという。もし処理水が放出されれば、取引先の国々との関係も悪化し、影響はさらに広がりかねない。そんな状況にもかかわらず、前任の社長は当時、福島第一原発の廃炉に理解を示し、福島が置かれた現状に寄り添うとしていた。
禁輸がもたらしたもの…国内相場の下落
前任の社長と同じく、千葉賢也社長もその思いは同じで、放出が行われている今もなお、これが福島の復興につながると信じている。ただ、放出によっておかれた企業の状況は深刻だという。 「簡単に言ってしまえばホタテの相場が下がってしまった。これは想定外だったし、一般の人は知らないだろう…」。 中国の輸入禁止措置の影響で、一大産地である北海道のホタテが行き場を失ったが、国の需要喚起策や輸出先の転換が図られたことで、中国をのぞく国内外の市場で流通が促進されるようになった。ただ、その反動でホタテの相場は3割近く下落。ヤマナカもそれに引きずられるように、「不良在庫にするくらいならば…」と現在も単価を下げてホタテの販売を強いられている。現状では、これまでの機会損失や逸失利益は全く取り戻せていない。