改正食品衛生法、誤解招き零細事業者の廃業相次ぐ 施設基準対応めぐり混乱
改正食品衛生法の施行後、一部では「新たに営業許可の取得が必要になった業種で、高額の施設・設備が要求されている」といった声が聞かれる。一方で、現場の衛生管理の状況やハザード分析を考慮に入れることで、施設面は最小限の改修で対応できた事業者もあるなど、HACCP制度化や施設基準の現場対応に混乱が見られている。
食科協「自主的改善重視すべき」
営業許可業種の施設基準は、食衛法の施行規則で規定されており、各自治体はそれらを参酌(さんしゃく)して条例を定めなければならない。条例では、業態によっては衛生上の支障がない場合や、必要な衛生管理措置が講じられていると判断できる場合には、施設基準の柔軟な運用が可能な場合がある。 例えば、施行規則では「壁、床、天井を不浸透性の材質にする」「水栓は洗浄後の手指の再汚染が防止できる構造にする」「作業区分に応じて区画する」といった規定がある。しかしHACCPおよび一般衛生管理が適切に構築・運用されている場合、不浸透性にすべきは大量の水を使う箇所、ドライ運用が困難な箇所などを中心に考えればよい。手指の再汚染を防止する構造は、必ずしも自動水栓にこだわる必要はなく、肘や足で開栓できるタイプに改修することで対応可能になるかもしれない。作業区分も「トイレや原料置き場などの区域」から「衛生的な作業を行う区域」への交差汚染を防止できれば、必ずしも隔壁の設置だけが解決策ではない。 食品保健科学情報交流協議会(食科協)は、改正食品衛生法の適切な運用について行政・事業者を交えた意見交換を重ねている。同会の加地祥文理事長(元厚生労働省)は「総合衛生管理製造過程(マルソウ)の時も同様の誤解が広まっていた」と振り返る。「マルソウは製造・加工技術の進歩を考慮して、必ずしも食衛法に従わない製品でも製造できるようにする多様性と規制緩和が本来の目的であった。しかし『HACCPには施設設備が必要』と受け取る事業者も多かった。HACCP制度化や、衛生規範やマルソウの廃止は、食品衛生行政が(行政の監視を重視する時代から)事業者の自主管理を重視する時代にシフトしたと理解すべきである。HACCPの手引書も、あくまで参考資料の位置付けであり、肝要なのは自主衛生管理である。食科協では『HACCPは自主的な継続的改善を重視すべき』という考え方が浸透するよう、今後も行政・事業者の双方への情報発信に努めていく」と語る。 HACCP制度化では、コンプライアンスと同時に、法や施行規則の趣旨を理解・共有した上での柔軟かつ現実的な運用が求められる。食品安全行政に関する正しい理解の醸成・共有が急務だ。
日本食糧新聞社