ノーベル賞大隅氏の「オートファジー」なぜ細胞の中身を“壊す”のが大事?
赤ちゃんマウスはオートファジーができないと命にかかわる
――大隅先生は、酵母をおもな研究対象としてオートファジーの研究をなさいました。久万先生は、現在どのような研究をなさっているのですか?マウスの飢餓応答を中心に研究されているそうですが。 オートファジーの体の中での役割を調べています。オートファジーを起こせないマウスは、生まれてすぐに死んでしまいます。マウスの場合、健康な赤ちゃんマウスはミルクがなくても21時間は生きられるのに対して、オートファジーに必要な遺伝子を壊された赤ちゃんマウスは12時間で死んでしまいます。見た目は正常なマウスと変わらないのに、です。タンパク質の合成にはアミノ酸が必要ですが、血液中のアミノ酸濃度を測ってみると、オートファジーを起こせない赤ちゃんマウスの数値が低かったので、「オートファジーは生まれてすぐの赤ちゃんの栄養補給で大事だね」ということが分かりました。 さらに、もう1つ不思議な点がありました。それはオートファジーを起こせない赤ちゃんマウスはミルクを飲んでくれないということです。どちらもミルクを飲ませない状態でも健康なマウスより早く死んでしまうので、オートファジーが栄養補給にとって大事だということに偽りはないのですが、ミルクを飲まないということも命を脅かす上では大きな問題だと思います。
――ミルクを飲まないという行為は、何が原因なのですか? 原因は、脳の神経異常です。 脳だけではオートファジーが起こるが、他のからだの部位ではオートファジーが起こらないマウスをつくると、ミルクを飲んでくれたので、おとなのマウスにまで育てることができました。 しかし、マウスの全身を解析すると、体は小さいのにひ臓や肝臓がとても大きくなります。免疫系も悪くて、さまざまな臓器で炎症が起こっています。最近私たちのグループからこの9月末に論文を発表したばかりの成果です。 ――1つの臓器が悪くなって他の臓器にも影響を与えるというよりも、それぞれの臓器で悪いことが起きているのですか? もちろん、ある臓器の異常が他の臓器に影響しているというケースもあるでしょう。ただ過去の他の論文と合わせて考えると、それぞれの臓器のそれぞれの細胞でオートファジーの役割が大事だと示せました。 ――マウスの健康においても、さまざまな場面でオートファジーによる「掃除」が大切なのでしょうね。