ノーベル賞大隅氏の「オートファジー」なぜ細胞の中身を“壊す”のが大事?
栄養が足りない時こそリサイクルが必要
――つづいて、オートファジーのもう1つの役割、「タンパク質のリサイクル」について伺います。リサイクル、しなきゃダメですか? やはり、もったいないですよね。オートファジーによるリサイクルが必要になるのは栄養が足りないときなのです。 ――栄養が足りないのなら、つくるタンパク質の量を減らせばよいのに、と思ってしまいます。 確かに、栄養が足りないときは、節約のためにタンパク質の合成量を減らします。しかし、栄養が足りないときだからこそ必要なタンパク質もあります。例えば肝臓の細胞だったら、脂肪を分解するための「ベータ酸化」という反応に関わるタンパク質です。普段は量が少ないのですが、栄養が足りないときはぐーんと量が増えるのです。こういったタンパク質をつくるためには材料が必要ですよね?どこからその材料を持ってくるかとなったときに、すでにあるタンパク質を分解しましょう、となります。 ――細胞にとって栄養が足りないときに、そんなことが起きているのですね。個々の細胞ではなく、私たちのからだ全体で栄養が足りないとき、つまり「おなかすいたなー」と感じるときもオートファジーが働くのですか? そうですね、マウスの場合は、餌を食べるのを止めてから6時間もすれば肝臓の細胞でオートファジーが働き出し、24時間もすれば全身の細胞でオートファジーが活発に起こります。 ――へー! 6時間くらいだと普段の食事の間隔ですよね。マウスと人間で栄養不足の程度がどのくらい同じかはわかりませんが。 オートファジーのもっとも基本的な役割は「飢餓応答(栄養が足りないときに、環境に対応すること)」なんです。マウスに限らず、酵母でもショウジョウバエでも栄養が足りないときにオートファジーが活発になります。オートファジーに必要な遺伝子を壊してしまうと、酵母では(厳しい環境に耐え抜くための)胞子がつくられないし、ショウジョウバエでは(絶食している)さなぎの状態で死んでしまいます。オートファジーは、栄養が足りないときに生き延びるためには必要なのです。 ――マウスに限らず、生物全体に備わる基本的な仕組みなのですね。「細胞の掃除」と「タンパク質のリサイクル」。オートファジーの役割がよく分かりました。