探査船ちきゅう、「東日本」起こした断層の謎に挑む JAMSTECが報道公開
前回、第343次航海ではこの地震を起こしたプレート境界から試料を直接、掘り出して分析した。その結果、断層部分は主に、滑りやすく水分の多い粘土でできていたことを突き止めた。蓄積していたひずみが地震でほぼ全て解放されたことや、断層が滑って生じた摩擦熱も捉えた。つまり、境界面の深い領域にとどまらず浅い部分まで滑り、しかも摩擦熱で粘土の水分が膨張したため、滑りやすくなったのだ。このように、地震や津波が巨大化した仕組みを浮かび上がらせたのが、当時の成果だった。
「浅い領域」滑った仕組み、決着目指す
12年が経ち、ちきゅうは今回の第405次航海で前回の調査地点を再訪、地震を起こした断層にアクセスする。主な目的は巨大化の詳しい仕組みや、次の地震に向けた海溝付近の変化の理解だ。 共同首席研究者の一人で、筑波大学の氏家恒太郎教授などによると、プレート境界の浅い領域が大きく滑った原因をめぐっては、2つの説がある。一つは、浅い領域も固着してひずみをため、限界に達したというもの。もう一つは、浅い領域は固着していなかったが、深い領域の固着がはがれ、その破壊が浅い領域まで“付き合って”連動したというもの。2つの説は「固着説」「非固着説」とも呼ばれる。「どちらが正しいか決着させるのが、今回の目的の一つだ」(氏家教授)という。
またJAMSTEC高知コア研究所の濱田洋平主任研究員は「(地震の後)日本海溝はもう次の地震に向かっていると考えられる。断層にどの程度、力がかかり始めているのかを調べ、どんな準備過程を経ているのか明らかにしたい」と説明する。
今回は、前回も掘削した海溝の陸側の海底下950メートルに加え、海側、つまり北米プレートに沈み込む前の太平洋プレートも450メートルにわたり掘削する。「沈み込むと地層はどう変わっていくのか、ビフォーアフターを比較したい。滑りやすい地層の厚さも明らかにしたい」と氏家教授。
採取した試料を調べる手法も、多彩で興味深い。例えば、岩盤にかかる力の向きは、試料の、導電率の部分的な違いを手がかりに推定できるという。岩盤の強度は、掘削のドリルにかかるトルク(回すための力)から把握できる。試料に力を加える実験により、摩擦の性質も調べる。掘削した穴に温度計を設置し、岩盤の固さに影響を与える水の流れを把握するという。