探査船ちきゅう、「東日本」起こした断層の謎に挑む JAMSTECが報道公開
海底をより深く掘るため、科学目的で初めて採用したのが「ライザー掘削」。パイプを二重にし、特殊な泥水を、船上から先端のドリルの方向へ送り込み、船上に戻して循環させる。泥水の調合を変えることで、地層の圧力や地質の変化に耐えて深くまで掘る仕組みだ。この方法で、水深2.5キロ以下の海底下を7キロまで掘削できる。ライザー掘削という呼び名は、泥水が上がってくる(英語のrise)仕組みに由来する。ただし今回の国際調査では、掘削地点の水深が7キロに及ぶため、ライザー掘削は行わないという。
日米欧などが主導し21カ国が参画する「国際深海科学掘削計画(IODP)」の主力船の一つとして調査を続け、世界の科学界の期待に応えてきた。IODPで採取した試料は、JAMSTECと高知大学が運営する高知コアセンター(南国市)など、世界3カ所で管理している。なおIODPの枠組みは米国の探査船の退役などを受け、今月末で終了するという。
世界の研究者が注目する日本海溝
ちきゅうは6日、IODPの第405次航海へと、清水港から旅立った。行き先は宮城県沖約260~280キロの日本海溝付近。研究テーマは「日本海溝巨大地震・津波発生過程の時空間変化の追跡」。地震の翌年、2012年に実施した第343次航海「東北地方太平洋沖地震調査掘削」の“続編”となる。 「東北地方太平洋沖地震は人類が経験し、マグニチュード9を計測し(断層の)掘削もできた唯一の地震であり、世界中の地震学者、地質学者が注目している。地震国のみならず、国際的に非常に重要なテーマだ」。出航を翌日に控えた5日、今回の航海の共同首席研究者の一人、JAMSTECの小平秀一理事は船上で言葉に力を込めた。
日米欧など10カ国の研究者計50人ほどが前半組と後半組に分かれ、10月末にヘリコプターを使い交代で乗船し調査や研究に従事する。12月20日、清水に帰港する。
従来説を覆し巨大化した地震、津波
地震は仕組みにより大きく分けて、海の「海溝型地震」と陸の「活断層地震」がある。東北地方太平洋沖地震は前者で、地球の表面を覆うプレート(岩板)のうち、海側の太平洋プレートが、陸側の北米プレートの下に沈み込む境界の日本海溝に沿って発生した「プレート境界地震」だった。 海溝型の巨大地震はプレート境界面の深い領域が固着する一方、海側プレートが沈み込み続けるためにひずみを蓄積し、ある時点で耐えきれなくなり一気に解放し、滑ることで起こる。一方、境界面の浅い領域は固着しないため滑らないと、従来は考えられていた。ところが東北地方太平洋沖地震では、その浅い領域まで大きく滑り、海底が大きく動いて大量の海水を押し上げ、巨大津波が生じた。