“イエスの方舟”から考えるメディアの在り方、TBS佐井大紀とフリーアナ長野智子が対談
映画「方舟にのって~イエスの方舟45年目の真実~」の監督を務めた佐井大紀と、フリーアナウンサー・長野智子の対談が行われた。 【動画】「方舟にのって~イエスの方舟45年目の真実~」予告編 本作は、1980年に東京・国分寺から10人の女性が突如姿を消したと報道されたことで話題になった謎の集団“イエスの方舟”の正体に迫ったドキュメンタリー。彼女たちを連れ去ったとされる集団の主催者・千石剛賢は、2年2カ月の逃避行の末に不起訴となり、事件には一応の終止符が打たれた。映画では、千石亡き今も続く共同生活を通して、パブリックイメージとは異なる彼女たちの生き方が映し出される。 長野は本作について「居場所を見つけられない人にとっての『逃げ場』を社会がどう捉えるのか、という映画」だと切り出す。かつてメディアによって“カルト教団”と騒がれ、社会現象となったイエスの方舟。佐井は「現在ならコミューンや女性の生き方といった、もう少し社会学的な文脈で捉えられると思うんですけど、当時はまだ歴史的な解釈がついてきてなかった」と指摘し、「報道機関としての使命もあるので、メディアが悪くて彼女たちが正しかったという二元論では測りきれないと思って取材しました」と振り返る。 メディアが最初に飛びついた“ハーレム的なイメージ”に対し、長野は「若い女性たちが1人の中年男性を囲んでいる状況への、ちょっとした違和感や異常性。そこから家族と宗教の問題に発展した記憶があるんです。『これってなんか怪しいよね』と思ったことが、視点を変えると正義な軸もあるのかと初めて知ったニュースでした」と明かす。そして「メディアの混乱も含めて、今でも不思議な事件だった。私たちはなんの答えも出ていないままなんですよね」と続けると、佐井は「(ドキュメンタリーを通して)彼女たちの真相や闇が暴かれると期待する方もいたんですけど、そんな簡単なことではなくて」と同調。「観る人が『私自身ってなんなんだろう?』『幸せってなんなんだろう?』と考える、そんなアイデンティティの映画になりました」と口にした。 メディアの現在にまつわる話にも及び、佐井は「大手メディアにも気骨がある方はいて、そういう人が撮ったドキュメンタリー映画が意義深いものになりロングラン上映される。うれしいと思う反面、映画という形でしか出せないところが日本社会全体の問題。ドキュメンタリー映画が元気になることが、社会にとっていいことかわからない」と吐露する。それを受け、長野は「佐井さんがテレビ局の社員としてラブロマンスのドラマまでこなしつつドキュメンタリー映画を撮っているのはすごい。そういう人がテレビ局から生まれてきたのは、1つの希望ですよね」と言葉に力を込めた。対談のフルバージョンはムービーマービーに掲載中だ。 「方舟にのって~イエスの方舟45年目の真実~」は全国で順次公開中。9月14日より大阪・第七藝術劇場、愛知・シネマスコーレでの上映が始まる。 なお9月14日にはシネマスコーレで11時55分の回上映後に佐井によるトーク、第七藝術劇場で14時30分の回上映後に佐井と立命館大学教授・佐々充昭によるトークが行われる。 (c) TBS