オーラリー 岩井良太 メン・オブ・ザ・イヤー・ブレイクスルー・ファッションデザイナー賞──世界が注目する“なんかいい服”
シンプルかつ、スタンダード。それでいて、朝の光が似合う。今、オーラリーの魅力に世界が気付き始めている。ブランドデビュー以来、コレクションを見続けてきた栗野宏文がオーラリーのこれまでに迫る。 【写真の記事を読む】シンプルかつ、スタンダード。それでいて、朝の光が似合う。今、オーラリーの魅力に世界が気付き始めている。ブランドデビュー以来、コレクションを見続けてきた栗野宏文がオーラリーのこれまでに迫る。
質の良い自然体の服
古着屋の販売員としての経験をもつデザイナーの岩井良太は、「ノリコイケ」など国内のいくつかのブランドを経て、2015年に自身のブランドをスタートした。 「ブランド名に何かいい言葉はないかと考えていた時、エルヴィス・プレスリーの『ラヴ・ミー・テンダー』の原曲である『オーラ・リー』というアメリカ民謡にふと出会って。エルヴィスや曲に特別な思い入れがあるわけではなくて、単純に語呂が良くて気に入ったんです。調べると“光る土地”や“日の当たる場所”という意味だった。僕はお酒が飲めないので、夜よりも朝の方がしっくりくる。ブランドをやるなら朝の光に似合う服を作りたいと思っていたので、ぴったりだなと思いました」 立ち上げから2年で東京・青山に旗艦店をオープン。当初は事務所移転のつもりだったが、物件の立地と広さから出店を決めたことで、「一点一点の服についてだけではなく、ブランドの世界観や雰囲気について考え始めることができた」と振り返る。2019年以降は、パリでのコレクション発表をスタート。ユナイテッドアローズ上級顧問の栗野曰く、「良くも悪くもランウェイ向きではない」服だが、ここ数シーズンで海外ジャーナリストからの評判が高まっているという。 「『FASHION PRIZE OF TOKYO』の受賞をきっかけにパリでプレゼンテーションの機会を得たのですが、ショーに特別こだわりがあったわけではなかったですし、自分でもショー向きのブランドだとは思っていませんでした。でもいざ発表してみると『第一歩でしかないな』と、続けてみたいという気持ちに変わりました。ゼロからのスタート。特別な出自や後ろ盾があるわけでもないので、まずはブランドを知ってもらうことからでした」 毎シーズンを一歩ずつ、着実に積み重ね、分岐点となったのは2023年6月。栗野も「フィナーレが忘れられない。パリの街並みにオーラリーの服を着たモデルたちが溶け込み、リアリティを帯びていた」と評する2024年春夏コレクション。パリの街に面したランウェイを歩いたモデルたちが、ショーの後、パリのストリートに一斉に並んだ。 「『パーソナルな癖』がシーズンのテーマ。すれ違う人のシャツに変な皺が入っていたり、袖や裾の捲り方が変わっていたり、そういうイメージだったので、偶然後ろを通る人や自転車、車も含めて、パリの街を会場として捉えたら面白いんじゃないかと思ったんです」 偶然と同居させることで生まれる、限りなく日常に近いプレゼンテーション。そこに計算や狙いはなく、オーラリーというブランドの姿勢にも重なる「らしさがあった」と栗野は言う。 「本当にいいものを丁寧につくり、質のいい自然体の服をつくることが、立ち上げた当初からコンセプト。ものづくりをするからには売れ残りたくはないし、セールになって欲しくない。僕自身、規模を広げたり、売り上げを伸ばすというヴィジョンはあまりなくて、それよりも服づくりやブランドイメージの質を高めていきたいし、毎シーズンやるからには、前シーズンより少しでもいいものになるように、一歩ずつ成長してアップデートしていきたい。無理せず自分たちが見える範囲で、身の丈に合ったバランスを求めていきたい」 外に向けた服ではなく、内に向けた服 こうした等身大の姿勢はものづくりだけではなく、「日常の延長線上にテーマがある。リアリティや現実味がある方が僕は好きなので」というコレクションのテーマ設定にも垣間見える。「パーソナルな癖」に続いて、初の公式ショーを行った2024年秋冬シーズンのテーマは「帰り道」。「夕方18時、仕事帰りに楽しみな予定へと向かう。そういう仕事とオンとオフの時間の切り替わりの瞬間をイメージした」というコレクションは、モデルがビニールに入ったガーメントを持ちキャットウォークする姿が印象的だった。ワークウェアに着想しながらも、緩やかなシルエットがその先に訪れる高揚感を漂わせている。ほかにも2023年秋冬は「寝起き」と、誰もが経験するような身近な日常のひとコマがランウェイという舞台で輝く。 「『着てます』と主張する服ではなくて、『なんかいい服着てたな』と余韻の残るような服が理想です。外に向けた服ではなく、内に向けた服。僕も、着る人も、自分でこれがいいと納得できる服を作りたいという気持ちは、ずっと変わりません」 “肩透かし”のようなテーマに、貫かれるマイペースさ。「だからと言って、四畳半ぽいブランドではなく、スケール感がある。すごくメジャーでもないし、マイナーでもない。そして、モードにもはまらない、オーラリーという独自の立ち位置を今、作ってるんじゃないかな? だとしたら最高だね」と栗野。 「それは幸せなことですね。クラフツマンシップというものに自分は影響を受けて、服づくりを始めたので、パリでコレクションしてないようなブランドが好きだったんですよね。今はショーをしていますが」 想定外の道を歩きながらも、モードの土俵においても芯は崩さない。岩井の真摯なものづくりと等身大な姿勢がオーラリーを鮮明に映しだす。世界は、オーラリーが描く日常に寄り添う服の魅力に気付き始めている。 PHOTOGRAPHS BY GO TANABE INTERVIEW BY HIROFUMI KURINO WORDS BY MIO KOMURA
【関連記事】
- 【写真の記事を読む】シンプルかつ、スタンダード。それでいて、朝の光が似合う。今、オーラリーの魅力に世界が気付き始めている。ブランドデビュー以来、コレクションを見続けてきた栗野宏文がオーラリーのこれまでに迫る。
- ファーストサマーウイカ メン・オブ・ザ・イヤー・ブレイクスルー・エンターテイナー賞──エンタメ界を席巻する唯一無二のオリジナリティ
- 石川祐希(バレーボール男子日本代表 キャプテン)メン・オブ・ザ・イヤー・ベストチーム賞 ──“世界一”に挑んだ歴代最強チームの熱い夏
- 村上 隆 メン・オブ・ザ・イヤー・ベスト・アーティスト賞──現代美術のSHOGUN、そのたゆまぬ挑戦
- 北口榛花 メン・オブ・ザ・イヤー・ベストアスリート賞 ──パリで勝利の鐘を鳴らしたスマイル女王