ダメな部下を叱責→大泣きさせてもセーフだが…「パワハラ認定される」残念な上司が言いがちな"余計な一言"
■相手が大泣きしても指導の範囲内ならパワハラに該当しない パワハラ認定が怖くて部下を叱れなくなった、という話をよく聞きます。しかし、部下を指導する際に、必要以上に心配することはありません。指導や叱責ができず教育もままならないとなっては、業務に支障をきたします。 【図表】「業務上の必要性」があればパワハラではない 「パワハラ」は「セクハラ」とは違い、受けた側が「パワハラされた」と感じても、それだけでは、パワハラだと認定されません。たとえば、部下を叱責したところ大泣きされて、その部下が翌日会社を休んだとしても、指導が通常の範囲内であれば、パワハラには該当しないのです。 厚生労働省の指針やパワハラ防止法では、「職務上の地位や人間関係などの優位性を背景に」「業務上、必要かつ相当な範囲を超えた言動」「労働者の就業環境を害すること」をパワハラであると定めています。したがって、業務上の必要性があり、組織の規範維持のために必要な叱責は、パワハラではありません。仮に命にかかわる現場で安全確認を怠り、危険を感じた上司に腕を掴まれたとしても「業務上の必要性」が認められるため、パワハラではないのです。あるいは成績が振るわない部下を一人だけ強く叱ることも「業務上の必要性」があると判断されます。
■第三者の証言がパワハラ認定から救う 部下への指導をパワハラ認定されないようにするには、注意も必要です。ポイントは①人格否定しない、②業務上で必要なことしか言わない、③繰り返し長時間行わない、の3つです。また、パワハラをしていないにもかかわらず、部下から「パワハラされた」と訴えられた場合には、同僚やチームメイトなどの第三者の証言が重要になります。過去の事例に部下がパワハラの証拠として叱責された音源を第三者委員会に提出したケースがありますが、第三者が「指導の範囲内である」と証言したことにより、パワハラ処分が取り下げられたこともあります。いざというときに、業務上必要な指導だったことを証明するために上司も録音を残しておくことが必要となってくるでしょう。 また、第三者に「指導の範囲内だった」と証言してもらうには、日々のコミュニケーションが重要です。普段から指導する際には優しい口調で助言していれば、「あの人は、そんなことを言う人ではない」と証言してもらうことができるでしょう。それでも部下からパワハラを訴えられてしまった場合には、まずは人事部や調査委員会に再調査依頼をすること。どうしても解決しない場合は、部下に反訴したり、会社に対して「安全配慮義務違反」として訴訟する最終手段も検討できます。 そうならないためにも、やはり普段の指導の際の言動に注意を払うことは重要です。たとえば、会話に余計な一言を加えてしまったために、パワハラに認定されたり、犯罪になったりすることもあります。たとえば、ミスをした部下に対して「しっかり見直さなければダメじゃないか」と指導するのは問題ありませんが、その後に「バカ野郎」とか「給料泥棒」などの言葉を付け加えると、パワハラになる可能性があります。「この能なし」「クズ」などと個人攻撃をすれば、パワハラだけでなく侮辱罪に該当しますし、「前の会社、こんな理由で辞めたくせにさ……」と精神的に傷つけることを公然と言えば、名誉毀損罪になるリスクがあります。殴ったりすれば、当然暴行罪に問われます。 指導方法が必要かつ相当な範囲を超えた場合もパワハラになります。ミスをした部下を少し厳しく叱るのは問題ありませんが、同僚が見ている前で晒すように説教するのはアウトです。人前で指導する際は感情的にならず、あえて厳しい言葉をかけるときは個室内でマンツーマンがよいでしょう。 ※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年11月29日号)の一部を再編集したものです。 ---------- 新田 龍(にった・りょう) 働き方改革総合研究所株式会社代表取締役 働き方改革総合研究所株式会社代表取締役。労働環境改善、およびレピュテーション改善による業績と従業員満足度向上支援、ビジネスと労務関連のトラブルと炎上予防・解決サポートを手がける。厚生労働省ハラスメント対策企画委員。 ----------
働き方改革総合研究所株式会社代表取締役 新田 龍 構成=向山 勇