現代美術界のトップランナー、加藤 泉「究極的にはたぶん自然みたいなものを作りたい」
現代美術界において日本を代表するトップランナーのひとり、加藤 泉。不思議な存在感を放つ"ひとがた"の表現はユニバーサルな層を深層心理で魅了してきた。この11月、京都・両足院で開催される展覧会に向けて準備中のスタジオを訪れた 京都・両足院での展覧会に出品する加藤泉の作品(写真)
「作品は人工物なんだけど、究極的にはたぶん自然みたいなものを作りたい」
キャンバスに絵を描くときは筆でなく指を使う。「筆より指のほうが上手に描けるから。別にスピリチュアルな理由ではなく、筆でやると俺じゃなくてもいいような線にしかならないんだ。ただ、調子がいいときは、(絵のほうから)こうしろって言われている感じはある。次はこの色をここに置け、みたいな。海外のペインターは、自分のやりたいことのために絵の具をコントロールして言い聞かせるみたいに絵を描く人が多いけど、日本のペインターは、絵の具や素材と相談しながら作っていることが多い。本当はこうしようと思っていたけど、こっちのほうがきれいだからこうしとこうって。絵のほうに譲ろう、みたいな作り方」 立体作品は絵画に行き詰まったときにでき始めた。「絵ってもうやり尽くされているから、考えすぎてスランプみたいな時期が必ずくる。それで直感的に彫刻をやったら打開できるんじゃないか、と思って木彫りをやったのが始まりです。ソフビ(ソフト塩化ビニール)は日本で開発された素材で、その人工的なものに手を出してからはより自由な展開になった。石や布、プラモデル、最近はアルミ鋳造もやっています」。石や布はその土地で見つけたものを使うことが多い。石選びは「組み合わせて絵のイメージが浮かぶか、というのがポイント。そこでもう8割くらいは完成している」そうだ。 これまでさまざまな場所で展示を行なってきたが、作品がまるでその場所に生息しているかのような佇まいを見せるインスタレーションも印象的だ。「細かく決めずに、ある程度たくさん作品を持っていって、現場を見ながら何を置くか決める。空間に絵を描くように展示するといった感じかな。究極的には自然みたいなものを作りたい。たとえば夕日を見て、失恋して涙が出る人もいれば、明日も仕事頑張ろう、と思う人もいる。自然ってある意味怖かったりもするし、見る人によって全然違う。作品は人工物なんだけど自然に近いというか、そんなものにしたいと思いながら作っています」 今年は"加藤泉賞" として、ソディがメキシコに設立したアート財団「CASAWABI」に次世代クリエイターが滞在制作をするための支援を始めた。「若い人はもっと外国に出たほうがいい。スポーツでも、たとえばサッカーの日本代表選手はほとんどが海外でプレーしていて、強くなっている。アートも残念ながら日本を中心には動いてはいないから、海外に出て作ってみたほうがいい。だから年に二人ずつでも海外に送ろう、と。自分も貧乏なとき、大人にいっぱい奢ってもらったから、ちょっと返そうかなっていう、かっこいい考えもある。アートは日本のような小さいコミュニティで熟成されるのではなく、もっと大きなフィールドで、個人とは?だったり、人が生きるって?などと考えられるべき。インターネットでも情報は得られるかもしれないけど、やっぱりフィジカルに動かないと。アートって、思想の遺伝なんですよ。血縁じゃなくてもいろんな人に伝えていけるよさがあるから」