「10年早い」は許されない―藤井聡太竜王を育てた杉本昌隆八段が考えるパワハラを防ぐ方法
「10年早い」という言葉は今では許されない
――昨今、指導者によるハラスメントが問題視されることがありますが、この点についてはどうお考えですか? 杉本昌隆: よかれと思って年長者が行き過ぎた指導をしてしまうことはあるのかなと思います。でも、それは絶対やってはいけません。 自分の場合は、1対1の指導はなるべく避けて、人がたくさんいる開かれた場でいろいろ話すようにはしていました。どうしても1対1だと熱くなって入れ込んでしまうことがあって、それが弟子にとって負担になってしまうこともあるからです。自分と違う大人の棋士がいると、客観的な目で見ることができます。そういうのもハラスメントを防ぐ方法の一つかなと思っています。 この世界もよく「10年早い」という言葉が使われることがあるのですが、それってその人の人格を見ない言葉だと思うんです。今では許されない考えですよね。 弟子が半人前で子どもだと思うから、一方的なことを言ってしまうんです。そういう意味では「指導者も弟子も同じ人間なんだ」と思わなければいけない時代だと思います。どれだけ若くても能力がある人はいますからね。こちらが言ったことに対して、言い返されてもいいやと思えるぐらいの関係でいたいです。 ----- 杉本昌隆 1968年11月生まれ。愛知県名古屋市出身。1980年11歳で故・板谷進九段門下入り。1990年に四段に昇段しプロデビュー。2019年に八段に昇段。本格派振り飛車党で、特に相振り飛車については棋界きっての研究家として知られている。将棋の戦術書の著作は20冊以上。『弟子、藤井聡太の学び方』(PHP研究所)では第30回将棋ペンクラブ大賞文芸部門で大賞受賞。 文:姫野桂 (この動画記事は、TBSラジオ「荻上チキ・Session」とYahoo! JAPANが共同で制作しました)