「10年早い」は許されない―藤井聡太竜王を育てた杉本昌隆八段が考えるパワハラを防ぐ方法
将棋の世界には師匠と弟子の関係があり、昔は弟子が師匠の家に住み込み、身の回りの世話をするなど、厳しい上下関係があった。しかし時代と共に、師弟関係のありかたは変化しつつあるという。藤井聡太竜王の師・杉本昌隆八段は「師匠に威厳はいらない」と語る。杉本八段にとっての“理想の師弟関係”とは何か。また、近年問題視されている指導者によるハラスメントについてどう思うか、話を聞いた。(聞き手:荻上チキ/TBSラジオ/Yahoo!ニュース Voice)
時代と共に変化する将棋の師弟関係
――なぜ、将棋の世界には師弟関係というものがあるのでしょうか。 杉本昌隆: 奨励会に入ってプロを目指していくためには、師匠の名前がないといけません。プロになりたいと思った少年少女は、必ず誰かプロの棋士の弟子にならなければいけないんです。そのため、いくら才能がある子であっても、必ず誰か師匠につかなければならないんですよね。だから、将棋の世界において、師匠は保証人や身元引受人のようなものだと思っています。 ――以前の師弟関係と、現在の師弟関係に変化を感じることはありますか。 杉本昌隆: 昔は師匠の家に住み込み、師匠の身の回りの手伝いなどをして生活を共にし、空いている時間で将棋の勉強をするといったかたちでした。ただ、今は住み込みではなく、師匠の教室などに通って将棋を教わることが多いです。 ――どういうタイミングで弟子を取ると決めるのですか? 杉本昌隆: これは縁かなと思います。私たち棋士が有望な少年少女を見つけて、「あなたちょっとプロの世界にはいらない?」と声をかけることはまずないんです。 奨励会には年齢制限があって、どんなにやる気がある子でもプロになれないケースのほうが実は多い。おおよそ8割の子がプロになれません。ですから、そんなに簡単に声はかけないんですよね。弟子のほうからプロの先生を見つけて「師匠になってください」とお願いされて、そこで師弟関係が築かれるということが多いです。 ――藤井竜王の場合も、同様の流れで師弟関係を結ぶことになったのでしょうか。 杉本昌隆: はい、そうです。藤井聡太少年は小学1年生のときから知っていて、見た瞬間に「本当に才能のある子だな」とわかりました。4年生のときに弟子にとったわけですが、実はこちらから声をかけてもいいかなと思うほど、「この子は絶対にプロになれるな、しかも超一流のプロになるな」と確信していました。これだけ関心があった子ですから、内心、自分のとこに来てくれないかなと思いながら待っていた覚えがあります。