デビュー15周年・朝井リョウ「直木賞を受賞した後に就職したわけではなく…」もはや若手作家ではない35歳がめざす「わけわかんない人」
年齢の物珍しさがなくなっていく35歳以降
――デビュー作で注目を浴びて以降も、コンスタントに作品を出し続けられるのは、間違いなく朝井さんの努力の賜物だと思います。ただそこにはいろんなご苦労もあったのでは。 いや、私は本当に超高い下駄を履かせてもらっていたんですよ。直木賞のときも「戦後最年少」みたいに年齢で注目していただきましたし。当時は、そういう物珍しさがなくなっていく30~40代の自分はどうなっているのか、メッキが剥がれているんだろうな、と思っていました。 今は、まさにこれからそういう時期が本格的に始まるんだろうなと思っています。今まで履いていた下駄の高さがすり減って、同業者の方々と同じ装備で戦うという状況がやっと始まるのかなと。 ――会社組織だと35歳は中間管理職的ポジションですが、文芸界の35歳はどういう位置づけなんでしょう。 年齢でいうと、まだめちゃくちゃ若手の部類だと思うんですけど、キャリアでいったら中堅なのかな。最近読んですごく面白かった石田夏穂さんの小説『ミスター・チームリーダー』の主人公が31歳でチームリーダーという役職に就いていて、そうだよな、同年代の友達はもう部下とかいるもんな、と思いました。 ――それで驚いたことなんですが、朝井さんは大学卒業後、一般企業に就職されてたんですよね。 そうですね。よく「直木賞も受賞したのにどうして就職したんですか?」と聞いていただくこともあるんですけど、時系列でいうと逆なんですね。 就職したタイミングではもちろん直木賞はいただいてなかったし、作家として食っていけるイメージも全く湧いていなかった。だから、「私……小説家だけど就職します!」みたいな決断があったわけではなくて、「大学卒業か~就活だ~」という感じでした。 ――じゃあ作家生活が軌道に乗り始めたから退職されたんですか。 具体的には言えないんですけど、当時一つ大きなお仕事のご依頼をいただいていて、「これはすごい意義のある仕事だ」と思って引き受けたんです。 同時に、その仕事を引き受けるなら会社員との両立は厳しいなとも感じていました。なので退職を決断したら、その仕事の話が丸ごとなくなって、結果的に退職だけしていました。でも正直、兼業生活をずっと続けていくのは自分には体力的に難しそうだったので、きっかけが降ってきてくれた感じです。