「戦わない」慈悲慈愛のリーダーシップが実は強靭な理由
すぐにでも取り組める3つの実践
一つ目は呼吸の実践。吸う息、吐く息だけにすべての神経を集中させ、たった一回だけ深く呼吸を行う。「たった一回だけ? と思われるかもしれませんが、一呼吸を丁寧に行うだけで、心が穏やかになったり、生理学的な計測をしても血圧が下がるなどの効果があります」とメン。さらにこの一呼吸を筋トレのように続けていくと、扁桃体や前頭前野を鍛えることができ、心を落ち着かせる能力が高まるという。 二つ目は「愛ある優しさの実践」だ。近くにいる、もしくは先ほどすれ違った知らない人を無作為に選び、「この方が幸せになりますように」と願う。他者のことを願うのだが何となく自分が幸せな気持ちになったり、じわりとあたたかい感覚が体を包み込む。 「願いを続けていくと、人の幸せを願うことが心の習慣になります。その習慣がその人の性格になり、それが人格になり、やがてあなた自身になるでしょう。そうすれば自然にみなさんは、より優しく、より良い人間になっていきます」 三つ目は、一つ目と二つ目の組み合わせ。一呼吸で人の幸せを願い、もう一呼吸で「この方の苦しみを私が取り除けますように」と願う。これは「慈悲の実践」と言われ、人間の行動を誘発するモチベーションを育むという。つまり優しさやより良い行動を自らが起こしていくきっかけとなる実践だ。 「慈悲慈愛のリーダーシップは、訓練によって培うことが可能です。今お伝えした実践を繰り返すことにより、皆さん自身が慈悲慈愛のリーダーシップを発揮できるようになります。しかしながら運動のように、体に良いと思っていてもなかなか続かないのが現実です。だから最初は上記のようなごく簡単な取り組みを、ツールとして使ってみてください。 自分自身が苦しいから、惨めだから、という理由で始めるかもしれません。でも続けていくうちにより良い人間になっていくことが感じられ、自分自身を受け入れて愛するという変容が起こります。自分自身を愛することができれば、自分を超越して生きとし生けるものすべてに愛を感じるようになります。こうして育まれた慈悲慈愛は、自分の想像を遥かに超えた力となるのです」 チャデー・メン・タン◎マインドフルネスを世界に広めたGoogleの「サーチ・インサイド・ユアセルフ(SIY)」の開発者。アメリカのジミー・カーター元大統領、Googleのエリック・シュミット、ダライ・ラマなどの世界的なリーダーから支持されている。現在は作家、映画プロデューサー、慈善家として活動。 青井浩◎慶應義塾大学文学部を卒業後、1986年に丸井(現・丸井グループ)に入社。2005年に代表取締役社長CEOに就任。創業以来の小売・金融に未来投資を加えた三位一体の独自のビジネスモデルでインパクトと利益の両立をめざす。著書に『サステナビリティ経営の神髄』(日経BP)。
国府田 淳