低迷期にもファンへの感謝を忘れず 引退した「T-岡田」がオリックスに残した何よりの“功績”とは
T-岡田の活躍を間近で見てきた著者が、その功績を振り返る。T-岡田が「最も印象に残った打席は?」と問われ答えた1本とは。そして、通算成績だけでは語れないその大きすぎる“功績”とは――。【喜瀬雅則/スポーツライター】 【写真を見る】観客の数を見ると、その愛されぶりがわかる。引退試合は最多動員数を記録 (前後編の後編) ***
土壇場で放ったホームランが試合をひっくり返した
T-岡田の“ホームラン人生”において、私が特に印象に残っている3本。 3本目は、2021年9月30日、場所は千葉・ZOZOマリンスタジアムだった。 25年ぶりの優勝をかけて臨んだロッテとの3連戦。ここで1つでも星を落とせば、ロッテに優勝マジックが点灯するという、まさに崖っぷちの戦い。 初戦、2戦目を連勝して臨んだ3戦目は、8回を終えて2点のビハインド。9回、ロッテは守護神・益田直也をマウンドに送り出した。無難に締めくくれば、ロッテが優勝へと大きく前進するのだ。 2点を追っての9回2死一、三塁。ここで打たなければ、オリックスが負ける。敗戦までアウト1つ。ここで、T-岡田が打席に立った。 1ボールからの2球目。益田が投じた宝刀のシンカーは、左打者のT-岡田にとって、外角へ遠ざかりながら沈んでいく厄介な球だ。 引っ掛けてくれれば内野ゴロ。逆方向に流されても、スタンドインはないだろう。そのバッテリーの狙いが、わずかに狂った。 真ん中寄りに、すっと浮いてきたその失投を、T-岡田は見逃さなかった。 思い切り引っ張った一撃は、千葉の夜空に放物線を描き、ロッテファンが陣取る右翼席へと飛び込んだ。15号3ラン。土壇場で、4‐3と試合をひっくり返した。 すべてがロッテに流れていた「勢い」を止める、まさしく起死回生の一発だった。 「ああいう場面で、ここ何年も打っていなかったですから」 十中八九、ロッテが手にしていたその白星をもぎ取ったT-岡田の逆転弾で、ロッテは3連戦3連敗。オリックスはゲーム差なしに詰め寄ると、翌10月1日、ソフトバンクに勝ったオリックスは、試合のなかったロッテを抜いて首位に立った。