「美術同人誌創刊25周年パーティーは全て自前! 面倒臭さ超える楽しさを実感」稲垣えみ子
元朝日新聞記者でアフロヘアーがトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。 【写真】問題のオルガンはこちら * * * 先日、お仲間に入れて頂いている美術同人誌の創刊25年を記念する会があった。 中心になっている人が「レトロ趣味」などという言葉も安く思える、戦前からタイムスリップしてきたような昭和な方なので、会場はイマドキこんな建物がよくぞ残っていたと唖然とする築100年の集会場。そこに朝から同人数十名が集合して雑巾掛けをして机と座布団を配置し、手作りの横断幕や花飾りや紙テープで舞台の飾り付けをし、近所の弁当屋のご夫婦が配達してくれた赤飯弁当と箸とツマミとコップと各種酒と氷と水をセットし、つまりはみんなめちゃくちゃ働いてようやく総勢100人のゲストをお迎え。 当然、会の出し物も自分たちでやるのである。ギター弾き語りに漫才にバンド演奏。不肖私もオルガンを弾かせて頂いたんだが、これが集会場備え付けのホコリをかぶった足踏みオルガンで、自慢じゃないが私50過ぎてピアノを習い始めただけの人間でして、ただでさえ人前で弾くなどやりたくないのに足踏みオルガンなんて弾いたことないし! と前日まで駄々を捏ねていたのも今となっては良い思い出である。ちなみに弾いたのはバッハ。教会のパイプオルガンならぬ集会場の足踏みオルガンで、シュコシュコ忙しい足踏み音が響くヨタヨタのバッハであったがそれはそれで皆様に喜んで頂けたのは幸いであった。
ちなみに後片付けももちろん自前。全てを元の位置に片づけ、残った酒やツマミは同人の1人が「にわかテキヤ」と化し調子の良い口上で一つ残らず希望者が持ち帰った。二次会を終えるともう夜。全くもって怒涛の1日であった。しかしよく考えたら笑えてくるほど楽しかったナと思う。 それは、あれが美味かったとか面白かったとかいうことではなく、あのドタバタの準備があって、なんとか会を無事に楽しくやり終えたこと全部が最高だったのである。楽しいって、何なんでしょうね。誰かに何かをサービスしてもらうことが楽しいってことがいつの間にか常識なわけですが、全然そうじゃない。 稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行 ※AERA 2024年5月13日号
稲垣えみ子