トイレを愛する彼女の「東大推薦合格」までの軌跡 2次試験の直前に合否、一般入試対策も必須
今年で9期目を迎えた東大の推薦入試
今年で9期目となる東京大学の推薦入試。定員はわずか100人で合計でも1000人に満たない人数だが、推薦生の学内での存在感は抜群だという。東大の推薦入試は、受験してから結果が出るまで約3カ月、2次試験の直前に合否が出ることから一般入試対策も必須。学力が高いのに加えて、推薦入試を受けるにふさわしい実績を持ち合わせているから、それもそのはずだ。今回はトイレの研究で推薦合格した原田怜歩(らむ)さんに、東大生作家の西岡壱誠さんが取材した。 【写真を見る】原田さんが中学生のときにまとめた「日本全国トイレの旅」 現在、大学受験は激変の時期を迎えています。従来行われてきた一般選抜入試によるペーパーテストの大学受験よりも、学校推薦型選抜・総合型選抜入試の割合がどんどん多くなっています。 2023年度の大学入試全体での一般入試の割合は48.9%に対し、学校推薦型選抜30.5%、総合型選抜20.6%となっており、学力で大学合格を目指す一般選抜よりも推薦型・総合型(旧推薦入試・AO入試)の割合のほうが多くなっています(文部科学省「大学入学者選抜の実態の把握及び分析等に関する調査研究」)。 そしてこの傾向は、私立大学だけのものではありません。177校ある国公立大学でも、2024年に学校推薦型選抜入試は173校、総合型選抜入試は105校が実施しており、半数を超えて年々多くなってきています(文科省「令和6年度入学者選抜について」)。 東京大学も、学校推薦型選抜・総合型選抜入試を実施する国公立大学の1つで、2016年度入試から学校推薦型選抜入試を行っています。一般入試で合格する人の人数が3000人程度なのに対して、推薦入試の定員はわずか100人。今年で東大の推薦入試は9期目になりますが、合格者は合計でも1000人に満たない人数です。 しかし学内では、そんな彼ら彼女らの存在感は強く、どの子も東大に新しい風を吹かせています。
海外のトイレに深い悲しみを感じたあとで……
今回は、第7期の推薦生である原田怜歩(らむ)さんから話を聞きました。 原田さんの研究テーマは“トイレ”です。「トイレを研究テーマにしている人というのは聞いたことがない」という人のほうが多いと思いますが、実際に彼女はトイレの研究を行って、その実績を認められて東大に合格しています。 きっかけは、中学3年生の夏休みにフロリダへ2週間語学研修に行ったときのことだと言います。ある意外なものによりホームシックを感じたことでした。それは日本の食べものでもなく、離れ離れの家族でもなく、あのトイレに深い悲しみを感じたと言います。 アメリカのトイレは防犯上の観点から、あらゆる場所が隙間だらけだったり、小動物のような温もりを感じさせる便座もなければ、川のせせらぎも聞こえない……そんなトイレに出合ったことで、日本のトイレの「おもてなし」精神に気づいたといいます。 しかし、そんな話をホストファザーにふと漏らしたら「大学のトイレへ行ってみてくれ」と言われ、その一言が彼女に新たな出合いを与えました。行った先に目にしたもの、それは男性とも女性とも言えないマークをしたトイレ、オールジェンダートイレでした。 幼い頃、親友からのカミングアウトでジェンダーについて関心を持った彼女。それまで彼女にとって普段使うトイレの定義は「日常における唯一のプライベート空間」で、「ほっと一息つける憩いの場」で、さらに「街中どこにでもある」ことでした。 しかしトランスジェンダーの中には、自らの性自認との相違や周りからの視線によって外出した際などに気軽に使えるものではなく、トイレの時間が苦痛に感じる人も少なくありません。 こうしてアメリカでトイレに魅せられた彼女は、「もっとトイレの中に秘めた無限の可能性を発見したい!」と考え、日本からトイレの機能的側面を、アメリカから文化的側面を相互発信すべく国の代表高校生として1年間の無償研究留学を決めました。