双子研究者ナンシー・シーガルに聞く最新の知見「結局、遺伝は私たちの人生をどの程度決めるのか」
米カリフォルニア州立大学の双生児研究センターを率いる発達心理学者のナンシー・シーガルは、双生児の特性について長年関心を持ち、研究を続けてきた。 【画像】双子の研究をしてきた発達心理学者、ナンシー・シーガル 同じ遺伝子を持ちながらそれぞれ違う環境に身を置くことができるため、遺伝と環境による影響の割合を調べるのに、双生児の調査は非常に役に立つ。過去には非人道的な手法での研究もあったが、現在では研究倫理も整えられ、多くのことがわかるようになってきた。 独誌「シュピーゲル」が、シーガルにこれまでの研究でわかっていることや、私たちが「遺伝」や「環境」に関して誤解していることを聞いた。
遺伝は人生を決めるのか
──1875年に英国のフランシス・ゴルトンが双子研究を立ち上げますね。彼は、双子は単に外見が似ているだけではないと予感してはいましたが、遺伝子がどれくらい強く私たちの人生を規定する要素かについては、まだ何も知りませんでした。私たちの何が生まれつき定まっているかについて、現在では何がわかっているのでしょうか。 「定まっている」という言葉は私は好きではありません。いかなる変更も可能ではないように聞こえるからです。 自分を変えたり、改善したり、知識を増やしたりすることはできるのです。にもかかわらず、遺伝子が私たちの人生において多くの領域で顕著な影響を及ぼしているということです。 ですから私は、どの特徴がどちらかと言えば「安定的」かという言い方をします。 ──どの特徴がより「安定的」なのでしょうか。 たとえば私たちの目の色です。それは、私たちがどこでどのように育っても変わりません。パーソナリティ、つまりどのくらい外向的か、オープンか、ないし良心的かといったことについて、50%は遺伝的影響を受けます。知能に関しては、それどころか75%程度まで影響されます。 ──人間のパーソナリティがそのように数値で表されうるということは、なかなか想像がつきません。それは本当にあらゆる個人に当てはまることなのですか。 私たちの研究は、大規模な集団に対する一般的な傾向を記述するものです。人によっては、環境の影響がもっと大きいということもあり得ます。たとえば、事故や虐待のような強いトラウマを経験した場合などです。あるいは、教育へのアクセスがほとんど不可能な環境で育つ場合もそうです。 ──あなたの研究は、主として経済的に恵まれた中流階級および上流階級を扱っていますね。近年、そうした人々に対して、ライフスタイル・コーチと自助コンサルタントの一軍が、著書やソーシャルメディア上で、自己修養を通じてより楽観的になったり成功したりできると約束しています。 もし、あなたが発見したように、パーソナリティがはじめから強く規定されているとすれば、そうした努力は無駄ではないでしょうか。 個人的な知り合いのライフスタイル・コーチがいないので、彼らの仕事を判断することはできません。もちろん彼らは、善意から行動しているのかもしれません。しかし、彼らの一部は過剰な約束をしているのではないかと懸念されます。 だとすれば、過剰な期待が生じはするものの、結局は人々は本来の自己へと逆戻りしてしまいます。 誰もが自己を改善することはできます。より賢くなるとか、よりスポーティーになるとか。そうなんです、とても外交的な人間は、少しセーブを効かせられるようになれますし、内向的な人間は、自分の殻からもう少しだけ這い出せるようになれるのです。しかし誰も、誰かを一夜にして魔法のように変えることはできません。 そのことを理解すれば、自分の好みや能力をもっと現実的に見積もることにつながるかもしれません。あるべくしてそういうあり方をしているのだとわかれば、安心感も得られます。