双子研究者ナンシー・シーガルに聞く最新の知見「結局、遺伝は私たちの人生をどの程度決めるのか」
人それぞれの「幸福の規定値」
シーガルは、キャリアの初期にはミネソタ大学で研究していた。1979年以降、当地の「ミネソタ双子・養子研究センター」は、幼少期に養子縁組によって別れた双子のペアを研究していた。そうした双子たちは異なる家庭で成長し、後に、場合によっては成人してかなり経ってから再会していた。20年以上にわたり、100組以上の双子の研究がおこなわれた。 子供たちにとって、養子縁組や両親の離婚による別離はたいていとてもつらいものだったが、シーガルのような研究者にとっては、こうした運命は発見に富んでいた。一卵性双生児はほぼ100%遺伝子が同じである。彼らが異なる家庭と社会環境で成長するケースでは、心理学者たちは、どの性質が遺伝に基づき、何が親、友人、教師の責任かをふるいにかけることができる。 ──ほぼすべての人が、もっと幸せで満ち足りていたいと努力をしています。どうしたらそうなれるでしょうか。 私たちはみなそれぞれ、個性的な幸福水準というものを持っています。いわゆる「幸福の規定値」ですが、私たちはそこへと結局戻ってしまうものなのです。 普段の生活でも体験することです。いつも幸せな人もいれば、いくらか控え目に中間的な幸福度を漂っている人もいれば、いつもどちらかと言えば調子が悪く、抑うつ的な人もいます。最後に挙げたカテゴリーの人が、突然宝くじで数百万ドル当てたとしましょう。彼の幸福水準は短期的には上がりますが、ある程度経つと、彼はまた昔と同じ振る舞いに戻るでしょう。 これは多くの研究で裏付けられていることなのです。 ──それほどまでに覆しがたく、私たちのなかに書き込まれているのですね。環境には関係なくそうなのでしょうか。 そのことを示す例としては、ある同僚の研究が挙げられます。彼女はある一卵性双生児のペアを研究したのですが、2人のうちの1人は事故に遭い、それ以降麻痺が残りました。不幸せな状態が続くもっともな理由になると私は思います。しかし、私の同僚が事故からしばらく経って2人の幸福や満足といった値を調べたところ、事故の前と変わらず、2人の結果はほとんど同じだったのです。 運命の一撃を他の人々よりも容易に乗り越える人はいます。それは彼らが生まれ持ったパーソナリティの一部なのです。(続く) 後編では、双子に関する過去の研究の倫理的問題点と、それを乗り越えてシーガルらがおこなってきた研究の成果を振り返る。双子の研究から得られた知見を役立てるためには、遺伝と環境を対立構造ではなく、新たな枠組みでとらえ、子供を支援していく必要があるとシーガルは言う。
Kerstin Kullmann