「不当廉売」の結果は?アメリカ・ボストンで〝訳あり商品〟の地下鉄に乗車 脱線やバッテリー爆発も、中国メーカー製の乗り心地は…「鉄道なにコレ!?」【第63回】
これらの車両の座席が堅いFRP製なのは同情の余地がある。必ずしも治安が良くないアメリカの大都市では、日本の鉄道車両で一般的に使われるパイル織物「モケット」は「汚されたり、刃物で損傷されたりしかねないために使用を避けている」(日本の鉄道車両メーカー関係者)という。 MBTAの1400系は立っている利用者向けのつり革があるが、日本の鉄道車両に見られるような握るための持ち手はない。合成樹脂の輪が上部の手すりからつり下がっているだけで、客室デザインの安っぽさに輪をかけている。 ▽「悪い買い物だった」納入遅れで中国中車に約230億円追加支給 中国中車からの受領が大幅に遅れていることに焦燥感を募らせたMBTAは今年4月、このままでは納入完了は2029年になると試算し、27年末までに納入が完了させることを条件に中国中車に対して1億4800万ドル(約230億円)を追加支給することを決めた。 知り合いのMBTA職員は「中国中車が納期を破ったのだから多額の損害賠償をせしめればいいのに、どうして盗人に追い銭をやらなければいけないのか?」と憤る。
これで中国中車への404両の支払総額は10億ドルを超え、1両当たりの平均価格は現在の為替レートの日本円換算で4億円程度となった。皮肉なことにこの平均価格は、入札で川崎重工が提示していた約3億7千万円を上回る。 中国中車製車両はもはや「安値」とは言えず、利用者の安全性を脅かしかねないトラブルを起こしてきた上に、納期も大幅に遅れている「三重苦」をMBTAは抱え込んだ。アメリカの製造業関係者の「悪い買い物だった」という評価には合点がいく。 対照的にニューヨーク地下鉄のR211は乗り込んだ女性客が「これがニューヨークの地下鉄の未来なのね!」と興奮する様子が見られるなど、洗練されたデザインと優れた乗り心地が反響を呼んでいる。 「MBTAも価格一辺倒ではなく、技術力や実績も正当に評価して川崎重工を選んでいれば『良い買い物』ができただろうに」と考えてしまうのは日本人ゆえであろうか。 ※「鉄道なにコレ!?」とは:鉄道と旅行が好きで、鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」の執筆者でもある筆者が、鉄道に関して「なにコレ!?」と驚いた体験や、意外に思われそうな話題をご紹介する連載。2019年8月に始まり、ほぼ月に1回お届けしています。ぜひご愛読ください!