ゾウや車…地震で犠牲になった蒔絵師・島田怜奈さんの、鮮やかで細やかな漆絵の数々 倒壊建物から発見した取引先女性「自分だけの宝物に」葛藤を経て展示販売へ
能登半島地震の「輪島朝市」(石川県輪島市)周辺の火災で亡くなった輪島塗の蒔絵師島田怜奈さん(36)の作品が6月8~15日に大阪市阿倍野区の「漆ギャラリー舎林」で展示販売される。 【写真】遺体はどんどん増えていく…化粧を施すと、泣きながら「かわいくしてもらったね」 葬祭関係者の知られざる奮闘
輪島塗は分業制で、別の職人が形を作って漆を塗った器などに、怜奈さんが郷土玩具や生き物などの絵を色鮮やかで細やかに手作業で描いていた。 朝市周辺にあった怜奈さんの自宅兼工房にあった作品は火災で焼失したが、取引先の工房を営む吉田ひとみさん(62)の夫婦が、地震で倒壊した建物から怜奈さんが関わった作品を救い出した。 吉田さんは怜奈さんの才能に惚れ込んでいた。ただ、展示販売を決めるまでには心の葛藤があった。(共同通信=村川実由紀) ▽兵庫から輪島へ 北海道網走市で生まれた島田怜奈さんは幼少期から兵庫県三田市で育った。明石高校の在学中に漆芸に出会い、秋田公立美術工芸短大(当時)に進学。2008年に石川県立輪島漆芸技術研修所に入った。卒業後は師匠の元で修業を重ね、その後独立した。 輪島塗は木を加工する人、漆を塗り重ねる人、装飾を加える人といったように複数の職人の手を介して生み出される。怜奈さんは装飾を施す蒔絵師で、漆に塗料を混ぜたり、金粉などを使ったりして器などに絵を描いていた。
輪島市で吉田漆器工房を夫婦で営む吉田さんは怜奈さんと一緒に作った輪島塗の器などを販売してきた。吉田さんの夫が漆を塗って、怜奈さんが絵を描いた。10年来の付き合い。怜奈さんは週に一度は吉田さんの家に納品や手伝いに来ていたという。 最後に会ったのは昨年の12月、怜奈さんが「輪島で一生懸命、仕事をやりたい。頑張ります」と話していたことが印象に残っている。怜奈さんは正月に実家に帰らずに輪島に残った。 元日の地震の直後、輪島朝市の付近に住んでいた怜奈さんは安否不明となった。その後、火災で亡くなっていたことが分かった。「どこかで生きていてほしい」と強く願っていた吉田さんは新聞を読んで亡くなったことを知り、気分が落ち込んで何も手が付けられなくなった。怜奈さんに仕事を頼んでしまった自分を責めたこともあった。 ▽倒壊した建物から遺作 吉田さん自身も輪島朝市通りにあった店舗を火災で失った。自宅兼工房も倒壊被害を受けた。壁が崩れた建物を片付ける中で、怜奈さんが関わった作品が見つかった。およそ100点。一部にひびが入った作品もあったものの、多くの作品は無傷だった。