ゾウや車…地震で犠牲になった蒔絵師・島田怜奈さんの、鮮やかで細やかな漆絵の数々 倒壊建物から発見した取引先女性「自分だけの宝物に」葛藤を経て展示販売へ
五色鹿やこけし、鳩笛など各地の郷土玩具や縁起物が描かれたものが多い。怜奈さんは勉強熱心だった。例えば仙台で器を販売する時には「仙台には青いだるまがあるんですよ」と言って描いてくれた。なぜその絵を描いたのか、どんなものに縁起があるのか、納品の際に一つ一つ説明してくれた。 作品の中には怜奈さんが絵柄を考えた伝統の枠にはまらないアジアンテイストの象やおもちゃのような車の器もある。イチゴ、オコジョ、ウナギ、コウモリ、チンアナゴ、お相撲さんの絵の作品を受け取ったことも―。お客さんに作品は好評だった。吉田さんは「怜奈ちゃんの発想にはいつも驚かされた。こんなかわいい漆絵を描ける人は他にいない。私自身が作品のファンだった」と語る。吉田さんは登山が好きなので個人の持ち物にリクエストしてライチョウの絵を描いてもらったこともあるという。 作品を見つけた当初は、思い出の作品の存在を明かさずに「自分だけの宝物にしたい」という気持ちになった。しかし、怜奈さんが絵を描いた器の注文を受けていたお客さんの1人に地震で傷が付いたので納品が難しくなったことを連絡した際に「もし良ければ器が傷付いていても良いので作品を受け取りたい」と言われてはっとなった。
「彼女の作品の良さに気づく人は全国にいる。私が彼女の才能を独占したままではいけない」。怜奈さんの家族に相談した上で展示販売することを決めた。 ▽楽しんで描いていたんだと思う 残った作品を見た島田さんの母裕子さん(65)は「楽しんで描いていたんだと思う。もうちょっと描かせてあげたかった」とつぶやく。怜奈さんは昔から絵を描くのが好きだった。「ひょうきんなところがあって、面白い子でした。楽しいことをよく発見してくる」といい、作品にもクスッと笑わせるような工夫がみられる。動物が好きでとくに鳥類が好きだった。 好きな絵を描くことを仕事として続けていく中で苦労もあった。絵の仕事だけではなくアルバイトをしていた時期もあった。家族に「好きなことをやるのもつらいんだよ」と話していたという。 怜奈さんの仕事を応援するため、吉田さんも工房のインスタグラムで作品を紹介していた。「#(ハッシュタグ)」で名前を検索すると多数の作品が表示される。怜奈さんが開いた展示会で吉田さんが購入し、焼失した店舗に飾っていた杯の写真もある。「今では手に取れない作品。写真に残していて本当に良かった」と話す。
吉田さんは取材時も幾度となく涙を流していた。気持ちに整理を付けるのは難しい。それでも展示販売会という目標を立てて、少しずつ前に歩み出している。