『シビル・ウォー アメリカ最後の日』アレックス・ガーランド監督が語る「右派と左派が喧嘩せず議論できる映画を」
血を流し拳を振り上げるトランプ元大統領。報道写真が持つパワーとは
―本作では報道写真が非常に重要な要素です。報道写真は目の前の真実を映しますが、ドナルド・トランプ銃撃事件の写真が彼をまるで英雄に仕立てたように、人々は思想によりそこに自由に物語を見出します。 ガーランド:写真はトリミングできるため、そこにあるのは「撮影者」の選択的真実です。写真をいつ撮るかの決断により、画はいくらでも変化するので、それは必ずしも真実とはいえません。私は写真のそんな部分も好きなんですが……。 1990年代や1980年代、それ以前からそうであったように、写真は今日でもパワフルなイメージになります。血を流しながら拳を振り上げているトランプの写真はまさにそうですよね。 ガーランド:つまり、フォトジャーナリズムは依然として力を持っているといえますが、一方で人々の真実に対する向き合い方は変わりました。私は1970年代に育ちましたが、当時は新聞に何かが掲載されると、皆それを信じていました。でも最近は違います。 それはソーシャルメディアの台頭が関係しているのだと思います。現在は言葉や画像、動画でさえ細工するのはとても簡単になりました。だから何を信用すればよいのかの判断はとても難しいですが、写真に力があるのは確かです。 ―あなたはXなどのソーシャルメディアをやっていませんね。 ガーランド:やっていません。心底大嫌いですから。 ―それはなぜでしょうか。 ガーランド:なぜだと思いますか? ―うーん……皆が恣意的に物事を語り、議論が成立せず、何も信用できないから? ガーランド:その通りです。 ―紛争下においてジャーナリストは保護されるべき存在にもかかわらず、本作では何度となく命の危機に晒されます。それは現在ジャーナリストが次々と殺害されているガザの状況を想起しますが、本作の物語と現実世界のつながりを感じることはありますか? ガーランド:この映画は実際に世界で起きていることを反映したものだと思います。ただ、この映画を撮ったのは数年前なので、当時ガザではいまほどの暴力ははじまっていませんでした。 ロシアがウクライナに侵攻しはじめたのも、プリプロダクションをしていたときです。そういった酷く非人道的な紛争は最近はじまったものではなく、人類の歴史を通じてずっと続いてきたことなのです。 ※以降、作品の内容に関する具体的な記述があります。