『シビル・ウォー アメリカ最後の日』アレックス・ガーランド監督が語る「右派と左派が喧嘩せず議論できる映画を」
「ジャーナリストたちも必要な存在として尊重されなくなった」
―現在、世界中でジャーナリズムは信頼を失いつつあります。その状況下で、ジャーナリストたちを物語の主役にしたのはなぜなのでしょうか? ガーランド:私はこの映画を通じて、報道とジャーナリストの役割について光を当てたいと考えました。自由な国には自由な報道が必要で、それは贅沢品ではなく必需品です。 ジャーナリストたちは勇気を振り絞り、必死の思いで戦地から物語を持ち帰ってくれています。ですが仰るとおり、いまやジャーナリズムには昔のような力はなく、ジャーナリストたちも必要な存在として尊重されなくなりました。その結果として、性的暴行で有罪判決を受け、邪悪で嘘つきであることが何度も証明されている男がアメリカの大統領選に出馬しているのです。 ガーランド:1970年代には、ワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワードとカール・バースタインという2人のジャーナリストが「ウォーターゲート事件」(※)の真相を暴き、ニクソン大統領を失脚に導きました。その事件の罪状の数は、ドナルド・トランプが犯した罪の合計よりも確実に少ないと思います。そう考えると現在起きていることは本当に奇妙ですよね。 (※)ウォーターゲート事件……1972年、アメリカの大統領選挙期間中、ワシントン・ウォーターゲート・ビルにある民主党本部に何者かが盗聴器を仕掛けようとして逮捕されたことに端を発した事件。事件にホワイトハウスが関与していたことが発覚し、1974年に共和党のリチャード・ニクソン大統領が辞任した。 ―あなたの現在の考え方は、風刺漫画家である父ニコラス・ガーランドさんの影響を受けているのでしょうか。 ガーランド:ええ。私は父だけでなく、父の友人のジャーナリストにも囲まれて育ってきましたから。家庭でも台所のテーブルを囲み、皆でよく議論を繰り広げていたのを聞いていました。私の名付け親もジャーナリストですし、幼い頃の環境による影響は大きいと思います。 ―戦場カメラマンを目指すジェシーのキャラクターは、海外特派員を目指していた若い頃の監督自身を反映しているとうかがいました。 ガーランド:私が自分をリーに重ねていると本作を観た多くの人からは思われているのですが、実際には仰るとおりジェシーに昔の自分を重ねています。 20歳のころに海外特派員になろうと強く決意した私は、世界各地を旅して記者証を偽装したり、デモに参加したり、地元のジャーナリストに同行したりと特派員の真似事をしていました。そこで見聞きしたことをルポルタージュとして書こうと思ったのですがなかなかうまくいかず……そして特派員としては成功できないと悟りました。そのフラストレーションから小説の『ビーチ』(※)を書きはじめたんです。 またジェシーを導くリーのモデルは、当時私が親しくしていた経験豊富なジャーナリストです。その人物はリーがしたように、私を危険な世界から遠ざけようとしていました。私はジェシーと異なり、言われた通りその世界を離れていきましたが。 (※)『ビーチ』……1996年にガーランドが発表した小説。タイを訪れた若い青年が、地上の楽園と呼ばれる伝説の孤島を目指す物語。2000年にレオナルド・ディカプリオ主演で映画化し、大きな反響を呼んだ。