『シビル・ウォー アメリカ最後の日』アレックス・ガーランド監督が語る「右派と左派が喧嘩せず議論できる映画を」
もしもアメリカの分断が進み、国を崩壊させるような内戦が起きたらどうなるのか。10月4日(金)に公開されたA24による最新作『シビル・ウォー アメリカ最後の日』は、そんな構想から生まれた映画だ。 【画像】アレックス・ガーランド監督 連邦政府から19もの州が離脱し、共和党支持者が多いテキサス州と民主党支持者が多いカリフォルニア州が同盟を組み、政府軍に対抗する「西部勢力」をつくる――。一見するとありえない設定にみえるが、秩序が保たれなくなった末に起きる数々の争いや暴力行為は、世界中でいま起きていることをふまえると、途轍もなくリアルにも感じられる。 監督を務めたアレックス・ガーランドは、「この物語は現実と地続きである」としたうえで、「右派と左派の観客が喧嘩をせずに議論できるような、双方に共通点がある映画をつくりたかった」と語る。この作品の狙いは何だったのか、インタビューで聞いた。
「内戦が起きた理由」はなぜ明かされない?
―作中では内戦の明確な原因は明かされませんが、憲法修正第22条に違反する「3期目」に就任した大統領が司法省機関であるFBIの解体を行うなど、アメリカ国内における三権分立制のバランスが崩れたことでファシズム政権が生まれたことが示唆されていますね。 アレックス・ガーランド(以下、ガーランド):その通りです。私が内戦の原因について詳しく言及しないのは、観客はすでにその答えを持っていると思うから。そこに詳細な説明は必要ありません。 本作で描いたのは過激派の政治家とポピュリストの政治家が台頭した先にある未来です。そしてそれは現実に世界中で起きはじめている。この物語は現実と地続きなのです。 ―テキサスとカリフォルニアが組んでファシズムに対抗するという本作は「保守vsリベラル」や「共和党vs民主党」という単純な二極化を避け、特定のイデオロギーを感じさせないつくりになっています。それは本作の主題であるジャーナリズムと同様に、あくまで客観的な観察者であろうという意図によるものなのでしょうか? ガーランド:伝統的にカリフォルニアは民主党の州で、テキサスは共和党の州です。そんなカリフォルニアとテキサスが、映画のなかでファシストの大統領と戦うために手を組みます。 そこで本作は観客に問いかけるのです。「民主党と共和党が『ファシズムは悪だ』と同意して手を組むことが、なぜそれほど想像できないのでしょうか?」と。もしあなたがそんな状況は想像できないと考えているのならば、それはあなた自身の問題を反映しているのかもしれません。 ―その状況を想像し難いとさせる要因の一つが政治的二極化ですよね。 ガーランド:そうですね。本当に悲惨な状況にあると思います。 ―A24公式がソーシャルメディアで公開した劇中のアメリカ地図には、西部勢力とフロリダ同盟、現体制支持派州のほかに、作中で一切触れられない北西部の新人民軍(New People’s Army)の存在も描かれていました。このバックストーリーについては今後明かされることはあるのでしょうか? ガーランド:その設定はジョークのようなものなので、それはないですね。 私は18歳から25歳のころにフィリピンで多くの時間を過ごしたのですが、そこで共産主義ゲリラの反乱が起きていました。それが当時のフィリピンでNPA、つまり「New People’s Army」と呼ばれていたことを少し面白いなと感じたのです。あの地図は、そんなNPAがフィリピンからオレゴン州ポートランドに移ってきたら……という、それだけの内輪ネタ的アイデアですね。 でも、じつはもともとNPAの人々も作中で描写していたんです。そこで彼らはマオイスト(毛沢東主義者)と呼ばれていたのですが、そのシーンは本編からカットされてしまいました。