「細くて速いなら、私もそっちが良い。でも…」“菊池病”との闘病も公表…100mハードル・福部真子(29歳)が語る決意「“嫌だ”を越えるのが大事」
現在、過去最高レベルの活況を呈している陸上女子ハードル種目。かつては夢の数字だった12秒台を7人もの選手がマークするなど、停滞気味の日本女子短距離種目の中で気を吐いている。その第一人者が日本記録保持者である福部真子(日本建設工業)だ。「ムキムキになるのは嫌」と苦笑する、日本最速ハードラーが描く未来図とは。《全3回の3回目/最初から読む》 【写真】「こ、これが体脂肪7%…!」“165cmのハードル女王”福部真子(29歳)の超バッキバキのフィジカルとモデル顔負けの長~い足。インターハイ3連覇の高校時代や、パリ五輪でのレースも写真で見る(50枚超) 女子100mハードルの福部真子(29歳)は、初出場のパリ五輪で準決勝に進出した。結果は組5着。レース前半こそ海外のトップ選手たちと互角に渡り合ったが、後半で一気に差を開けられた。レース後に尾﨑雄祐コーチに会うと、こう言われたという。 「福部は、君嶋(愛梨沙、土木管理総合)に勝つか、良い勝負をするぐらいにならないとだめだ」 君嶋は女子100mで日本選手権を3連覇中のトップスプリンターだ。100mの自己ベストは11秒36。一方、福部は出場機会こそ多くないものの、11秒96にとどまる。 尾﨑コーチは、同じ中国地方の山口県出身で、福部と仲が良い君嶋を引き合いに、走力強化こそが世界で戦うために必要なピースだと説いた。 だが福部は、「そこでぽっきり心が折れた」と振り返る。 「元々、走りの才能がないからハードルに行ったんですよ」 実は福部にとって、100mは陸上を始めた小学生時代に挫折した種目だった。
君嶋、土井杏南…福部が「勝てない」と感じたライバル
小学生の全国大会「日清食品カップ」に出場したときのこと。後に14年間破られることのない中学記録を作る同世代のスプリンター、土井杏南(JAL)の走りを目の当たりにした。 「一緒に走って、あ、この子には勝てない。『じゃあ、やーめよ』と思って(笑)。そこで100mはあきらめたんです」 中学になると、当時から親交のあった君嶋が200mで中学新記録を出した。同世代のスプリンターたちとの走力の差を早くから痛感してきた。 頑張れば勝てる。そう思えたなら、続けたかもしれない。ただ、当時の福部は、彼女たちの走りは明らかに「ものが違う」と感じた。 元々、陸上を始めたのも、その前に習っていた水泳で1番になれなかったから。負けず嫌いであるがゆえに、「1番になれないものはやらない」のがポリシーだ。そうして、自分の種目に決めたのがハードルだった。 それなのに――。100mを小学生であきらめて、15年以上が経った。そこで再び「走力」で日本トップレベルになる必要性を突きつけられた。 「無理だよ」 福部は、率直な思いを尾﨑コーチに告げた。懸念材料は、ほかにもあった。 パリ五輪に出場した時点で28歳。福部には、競技者として様々なチャレンジができるのは「長くてあと2年」という考えがあった。30歳を過ぎると、けがのリスクに向き合う時間が増えるイメージがある。残り限られた競技生活で、苦手なスプリントを底上げできる自信がなかった。 それでも尾﨑コーチは、論理的に、丁寧に、走力の必要性を伝えてきたという。 「五輪で6台目くらいまで良い勝負が出来ていたのに、そこから一気にあんなに離された。インターバルが8.5mって決まっている中、残りの4台であれだけのタイム差をつけられるということは、スプリント以外考えられない」 ハードリングは、走力を補うために培ってきた自分の武器だ。走力に活路を見いだす尾﨑コーチの考えは、正論でしかなかった。 スプリントの向上は昨冬のテーマでもあった。重りを引く練習やミニハードルを使ったサーキットに取り組み、練習の200mでは自己ベストが出るなど成果もあった。
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