「細くて速いなら、私もそっちが良い。でも…」“菊池病”との闘病も公表…100mハードル・福部真子(29歳)が語る決意「“嫌だ”を越えるのが大事」
日本記録保持者となって…次にめざすものは?
来年には東京で世界陸上が控える。4年後にはロサンゼルス五輪もある。だが、今後は、そこを目標だと公言しないつもりだ。 次にめざすものははっきりと決めた。12秒44のアジア記録更新だ。 この記録は福部が生まれた1995年に樹立されたこともあり、浅からぬ縁を感じている。「かなえられるかどうかわからないぐらいの目標じゃないとやっていられないので」 アジア新記録達成へのポイントを、福部は「『嫌だ』を超えること」だと言う。 「体が大きくなるのが嫌だとか、足が太くなるのが嫌だとか、ムキムキになるのが……とか。細くて速いなら私もそっちが良いっていう、女の私も出てくるんですよ(笑)」 海外選手の屈強な体を目にすると、もっと筋肉をつけようと思う。一方、国内ではトップハードラーでも細身の選手が少なくない。スタートラインで横に並んだとき、自分の体の大きさが嫌になる。 筋トレをすると筋肉がすぐに「パンプ」するタイプで、昨日まで穿いていたデニムが入らなくなるなんてこともざらだ。 体を強くするには、普段の食事にも気をつかう。休みの日でも、夕方以降は次の日の練習に向けた体調管理が始まる。地元にいるからこそ、おしゃれをし、家庭をもっている同世代の友人も多い。そんな生活が「純粋にうらやましい」とも思う。だからこそ、競技を続ける上では、より高い目標が不可欠になる。 「それだけ大きな目標がないと簡単に崩れてしまうんですよ。そんなに強い人間でもないし。みんなメンタルが強そうと言うけど、激弱なんですよね。激弱だから自分で首を絞めて、強くなる方向にもっていくんです」 まずは、次の2年で「12秒44を出せる」と思えるまで地力を付けられるかが勝負だ。そのためには、福部だけでなく、日本の女子ハードル全体のレベル向上も必要になる。
黄金時代の女子ハードル…でも「少し停滞している」
現在、100mハードルでは7人がかつての大台だった12秒台に突入している。その全員が現役選手だ。 だが福部は、「その状況がずっと続くかはわからないし、今も少し停滞していると思う」と言う。2024年に限れば、複数回12秒台を出したのは福部と田中佑美(富士通)、寺田明日香(ジャパンクリエイト)の3人。決勝ラインの選手全員がコンスタントに12秒台を出す状況には至っていない。 ハードル種目は今、男子の方が世界に近い。パリ五輪では村竹ラシッド(JAL)が5位入賞。2023年世界選手権では泉谷駿介(住友電工)も5位入賞を果たしている。 「男子は日本のトップに行けば、世界水準なのがうらやましい。同じ参加標準を切っていても、向こうはワールドクラス。同じ日本記録保持者でも、『この差は何? 』って思うんですよ」 男子も、2018年に金井大旺(ミズノ、当時)が14年ぶりに日本記録を更新するまでは低迷期が続いていた。そこから一気に、国内のレベルが世界に近づいた。 「(男子は)ライバルと思える存在が多くいて、いつも気が抜けない。『おれもおれも』となっているように見えます」 女子も、日本選手が常に世界で勝負できるようになりたい。そのために、第一人者として、何ができるのか――。 そんな思いを抱え、来季へ向けて始動した。 またも大きな壁が立ちはだかったのは、その矢先のことだった。 12月3日にインスタグラムを更新。11月19日に、組織球性壊死性リンパ節炎、通称「菊池病」と診断されたと明らかにした。主な症状は、発熱と頸部のリンパ節膨張。10月中旬に痛みが出始め、11月上旬から2週間以上、「地獄の日々」というほどの発熱と痛みを繰り返したという。 正式な診断を受けたのち、治療の理由を申請を出した上で、ステロイドを服用した。熱が下がったころには、練習を中断した影響で体重が3キロ減っていた。現在も治療中で、公表するかは迷った。ただ、「この投稿が誰かの役に立てば嬉しいし私の経験も無駄じゃない」と公表を決めたという。 これまでも、何度も苦難にぶつかってきた福部。それでも、その経験を惜しむことなく伝え、自身も克服してきた。 全てが結実する日が、いつか来る。その瞬間を信じ、来季もハードルを越えていく。
(「オリンピックPRESS」加藤秀彬(朝日新聞) = 文)
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