【「悪の華」を演じる俳優は将来性がある】ブレイクからトップスターへ“通過儀礼”受ける注目の役者たち
芝居のなかで喜劇がもっとも演じるのが難しいといわれる。逆にいえば、喜劇俳優はシリアスな演技ができるということである。 【写真】2025年の注目俳優たち NHK大河ドラマ『光る君へ』のなかで、有職故実に通じた学識人として道長の信頼が厚い、藤原実質を演じたお笑いトリオ「ロバート」の秋山竜次が最近では記憶に新しい。 若い読者にはなじみがないだろうが、映画『飢餓海峡』(水上勉原作、内田吐夢監督、1965年)の老刑事役を演じた喜劇役者の伴淳三郎や、『どですかでん』(黒澤明監督、1970年)における貧しい子どもが多い夫役のお笑い・てんぷくトリオの三波伸介らがいる。 横浜流星や河合優実、永野芽郁、八木莉可子……。ブレイクからトップスターへの階段を上っていこうとしている俳優たちは、コメディアンやコメディアンヌの演技とともに、「悪の華」となることを求められる。 それは、演技している役柄が悪人というわけではない。ピカレスク・ロマン(悪漢小説)とも異なる。正義を秘めた悪とでもいったらよいだろうか。閉塞感が漂う現代のなかで、スターに求められている。 『悪の華』はボードレールの詩集から引用するのがわかりやすいかもしれない。近代人の『神曲』とまでいまいわれている作品は、発刊当初は批評家からほとんど関心を払われなかった。 われわれが心を占めるのは、われらが肉を苛(さいな)む 暗愚と、過誤と、罪と吝嗇(けち) 乞食が虱を飼うように だからわれらは飼いならす、忘れがたない悔恨を。 われらが罪は頑(かたく)なだ、われらが悔(くい)は見せかけだ。 思惑があっての告白だ、 だから早速いい気になって、泥濘道(ぬかるみち)へ引き返す、 空涙(そらなみだ)、心の汚(けがれ)はさっぱりと洗い流した気になって。 堀口大學訳・2023年6月刊、新潮文庫・69刷(今日ではふさわしくない言葉もあるが訳にまかせた)
江戸時代の版元で横浜流星は飛躍か
25年の大河ドラマ『べらぼう』において、江戸時代の版元の蔦屋重三郎の主役に抜擢された、横浜流星は「悪の華」の演技ができる逸材のひとりである。大河ドラマのあらすじは明らかになっていないが、蔦屋重三郎は幕府の出版禁止と闘う出版人として描かれていくのだろう。 横浜が一段とスターとしての値打ちをあげるチャンスである。ここでは、幕府が悪ということになるのだろうか。弾圧を加える側との駆け引きのなかで、過去の演技の片鱗がみえると考える。 映画『嘘喰い』(22年、中田秀夫監督)では、天才ギャンブラー・斑目貘(まだらめばく)を演じて、いかさまやだましを駆使しながら、ギャンブルの秘密組織に挑む。ドラマ『私たちはどうかしている』(20年、日本テレビ)において、浜辺美波とW主演で和菓子店の寡黙な主人として、ミステリーを演じた。 そして、映画『正体』(2024年、藤井道人監督)は、ロングランで大ヒットとなり、横浜流星の若き日の代表作となるだろう。一家殺しの汚名を着せられた鏑木慶一(横浜)が脱走を図って、真相を解明しようとする。施設で育った鏑木が、逃走中にさまざまな人たちと触れ合って、それらの人々は彼の無実を信じる。 鏑木を追う刑事・又貫征吾(山田孝之)との逃走、追走劇は息を飲む。