「まっとうに育つしかなかった」小6だったあの日から10年。親世代が人生をかけてくれた「復興」のその先へ #これから私は
「まっとうな自分」も、今は嫌いじゃない
―なんというかすごくバランスの良い「まっとう」な感性をお持ちですよね。 坂本樹さん: 僕たちは震災のせいで「まっとう」になるしかなかったんですよ。「生きていれるんだったら、ちゃんとしたい」。それは今でもすごく思いますね。 僕には反抗期もありませんでした。親たちが苦労している姿を見ていると、反抗する気なんて湧きませんでした。もちろん、逆にめちゃくちゃ反抗していた人もいましたよ。でもトータルでは「ちゃんとしなきゃ」っていう感覚を共有してる世代だと思うんです。 ちゃんとしてない人って、周りに助けてもらえないんです。本当にヤバいときに協力してもらえるかどうかは、日常生活のささいなことで決まるのだと、避難生活のなかで身にしみて感じました。だから僕は震災以降、人との付き合い方も変わったと思いますよ。クラスメイトに対しても、好きとか嫌いではなく「どうしたらもっと協力的になってくれるかな」と考えて接していました。 ―そんな「まっとうな自分」は嫌い? 坂本樹さん: はじめは、どこかに嘘をついてる感覚がありました。お利口さんにしているというか。でも、僕は誰かに悪意を持っている訳じゃないし、「この人と一緒にこんなことができたらいいな」と純粋に思ってもいるんです。そう気づいてからは、「まっとうな自分」も嫌いじゃないです。
―これからどうしたい? 坂本樹さん: 町自体の復旧はもう終わっていると言ってもいいと思います。親たちの世代が、人生をかけてここまで必死こいてやってくれたんです。 だから僕たちがこれからやっていくべきなのは、あの経験を社会にどう影響させていくかです。あの震災を、ただただ暗い記憶じゃなくて、ポジティブなもののきかっけにしたいじゃないですか。災害はいつか必ず起こります。今のコロナにしてもそうです。世の中がパニックになりそうなときに、ドンと構えていられるのは、あれだけの経験をした僕らだけだと思うんです。それが僕たちの世代が担っていく「復興」ではないでしょうか。 (撮影・動画編集:平井慶祐 / 文:福地敦)