初優勝の舞台裏 安田祐香が明かす“一本の電話”の存在「後押ししてくれました」
<日本女子オープン 事前情報◇24日◇大利根カントリークラブ 西コース(茨城県) ◇6845ヤード・パー72> 原英莉花の変顔【写真】 先週の「ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープン」でツアー初優勝を挙げた安田祐香。その瞬間を、特別な気持ちで見守る人物がいた。それが青木瀬令奈のコーチ兼キャディを務める大西翔太氏だ。 「気付いたらチーム祐香でした(笑)」。そう言って笑う大西氏は、ツアー会場で日頃から安田にアドバイスを送る“第二のコーチ”ともいえる存在だ。自らのことを「セカンドオピニオンです」とも表現するが、安田に聞くと、その言葉も初優勝を支えたひとつの要因だったことを明かす。 「スイングの動画を撮ってくれて、それでアドバイスをもらったり心強いです。すごく意見もくれる。自分以外の考えを聞くことはとても大事だなとも思います」 安田の師は、今年7月22日に76歳で亡くなった坂田信弘氏で、現在は長男の雅樹氏の指導も受ける。ただ大手前大ゴルフ部の監督も務める雅樹氏は、常にツアーに帯同するわけにはいかない。そこで試合会場では大西氏と話し合うことも多い。「翔太さんとのきっかけは…忘れちゃいました(笑)。でも気づけばたくさんアドバイスをいただいていて。瀬令奈さんにも仲良くしてもらっていることもあって」。困った時、すぐそばに居てくれる存在だ。 優勝前日のこんなエピソードも明かす。初日を単独首位で終えた安田だったが、2日目は降雨にともなうコースコンディション不良もあって競技が中止に。雨音を聞きながら過ごす長い一日のなかでは、どうしても“葛藤”が生じてくる。「3日目も無くなるんだろうかって考えたり、試合ができても岩井姉妹なども上位に居て…ネガティブに考えてしまっていたんです」。そんなところに一本の電話がかかってくる。 声の主は大西氏だった。『勝ちたいではなく、自分が勝つと思って。君ならできる』。その言葉のひとつひとつが、後ろ向きになりかけていた気持ちを奮い立たせた。「後押ししてもらいました。強気にプレーできたのも電話のパワーが大きかった」。最終日は9ホールを行い、全選手が27ホールをプレーしたことで無事、競技が成立。2つ伸ばした安田は、追いかけてくる岩井千怜らを3打差で振り切る、見事な勝ちっぷりを見せた。 大西氏は、その言葉の真意をまっすぐな瞳でこう明かした。「安田祐香という選手は、僕のなかではスーパースター。祐香ちゃんならできると心の底から120%思っているから、そういう言葉が勝手にでてくるんです。もし“できない”と思っていたら、そんなことは言えません」。長年、青木とともに女子ツアーで戦ってきた人物の目に、安田はこううつっていた。安田はこの言葉の“効果”について、「もし結果がダメだったとしても、『勝つ』と意識することが大事だと思いながら戦えたのはよかった」とも話す。 モチベーターとしての役割だけでなく、時に技術的な助言ももらう。この週の開幕前には、スイングについても言葉をかけられていた。「左に球が出るというので見ていると、体が止まって、上体がつっこむ形でインパクトに入っていたことに気づきました。そうするとフェースが返って、左へ出てしまう。祐香ちゃんのウェアには、左腰のあたりに『NEC』のロゴが入っているのですが、悪くなると上体が回り過ぎて、ロゴの“N”が見えなくなる。それが見えるように振って欲しいと声をかけたら、すぐによくなりました」(大西氏)。安田自身も、すぐに球持ちのよさなど効果を実感した。 「スイングもですけど、いつもポジティブな言葉で試合へのモチベーションを上げてくれます。落ち込んでいても、一緒にご飯に行ったりすると『よし頑張ろう』って思えます」(安田) 大西氏も、「技術もレベルアップしていますし、『私が勝つんだ』と思い、そこは“祐香ちゃんのステージ”だと思って欲しい。2勝目、3勝目すぐできる実力もあります。そこに向けていいチャレンジをしてもらいたいですね」とさらなる期待を込める。プロ5年目にしてひとつの壁を打ち破った23歳は、今週、まだアマチュアだった2019年以来となる“日本一”を争う舞台に挑む。その会場でも入念に話し込む2人の姿が見られそうだ。(文・間宮輝憲)