【本屋は生きている】神戸から沖縄を思い続ける専門書店「まめ書房」 見上げれば、限りなく緑に近いブルー
沖縄で教えを乞うて道がひらける
岡本を選んだ理由は、住んでいる西宮から近いし好きな街だったからと、金澤さんは言う。と、こんな話をしているさなかに由紀子さんがやってきた。安定した企業を辞めての本屋作り、パートナーとして不安はなかったんですか? 「それまで私もアパレルの販売をしていて。店舗運営についてはなんとなくわかっていたし、儲からなくても2人で生きていければOKと思ったんです」 在庫は現在約1000冊で、棚は新刊と古書が程よくミックスされている。新刊と古書の両方を扱うことは最初から決めていたものの、仕入れ先のアテもツテもない。新刊は沖縄の出版社に直当たりすることで解決したが、古書については神戸では沖縄本を売りに来る人の想像がつかない。沖縄で買い付ければ良いだろうと思ったが、沖縄の財産ともいえる古書を「ナイチャー」である自分が県外に持ち出し、商売などしていいのかという葛藤があった。 沖縄の古本屋に行き事情を話そうと、まず、那覇市にあった「言事堂」を訪ねた(現在は長野県諏訪市にお引っ越し)。すると店主の宮城未来さんから、那覇の第一牧志公設市場脇にある「市場の古本屋ウララ」店主の宇田智子さんのイベントがあると聞き、会場のジュンク堂に向かった。するとその場にいたコワモテのおじさんから「子どもさんはいない? じゃあ何とかなるかもね。飲み会やるからあなたも来たら?」と、いきなり誘われてしまう。 その「コワモテおじさん」こそが宜野湾市にある老舗古書店「BOOKSじのん」の天久斎さんだった。まさに沖縄古書界のキーパーソン、私も何度も世話になっているアツくて優しい方だが、天久さんの話はまた改めて。 その天久さんから2015年12月の古本セリ市にも誘われたことで、沖縄の人に受け入れてもらえた気がしたと金澤さんは語った。 2DKのマンションの一室を店舗にすることに決め、2015年2月からリフォームを始めた。壁と天井を抜き、畳敷きの部屋をなくすなど大掛かりなものだったが、退職金と貯金をにらめっこしつつ、インテリア雑誌を参考に内装を考えた。入口扉のアーチは沖縄の城(ぐすく)の門の曲線を模し、天井のブルーグリーンは沖縄の心象風景をテーマにした。 棚は入口に近い場所にエッセイなどを並べ、見進めていくと静かに海に浸っていくように、政治や戦争などの本になっていく。沖縄の伝統的な民具や、沖縄の作家が作る工芸品は由紀子さんがセレクトしている。レジと書棚の間のテーブルには本が置かれているものの、平台ではなく来た人が本を座って読めるようになっている。話をしているうちに開店時間になり、女性がひとり。本を探して手に取り、椅子に腰をかける。 きっと毎日、まめ書房ではこんな時間が流れているのだろう。「開店以来、綱渡りの日々だった」と金澤さんたちは言うが、こうしてまめ書房で過ごす時間を目当てに、訪れる人は後を絶たないように見える。これまで「潰れたら恥ずかしい」という理由で特に記念イベントをしてこなかったが、もうすぐ迎える10年目では何かするかもしれないと笑った。 「なぜ沖縄県の外で、沖縄の本の専門店をやっているのか? それは本や工芸品を通じて、沖縄の文化や歴史を日本の人たちに知ってほしいから。沖縄の文化や歴史には、知れば知るほど驚きや感動があります。ワクワクするようなこともあれば、過去を反省し未来をより良くするために知っておかねばならない辛いこともあります。本や工芸品は、そんな沖縄を知る長い道のりを照らす『灯り』だと思います。店を通して人それぞれに応じた良き灯りを差し出し、一緒に歩いていきたいと思っています」 別れを告げて店を出て歩くと、神戸発のベーカリー「ドンク」のビルが目に入った。と同時に、お腹が鳴る。リブロ閉店と聞いて重くなっていた気持ちも、気付けば晴れているのがわかった。誰かと思いを話すって癒し効果があるようだ。そして私の心にも、ほのかな灯りがともっているのを感じていた。 沖縄気分に浸りながらも、やっぱりここは神戸。しっかり欲望を満たしてから、帰ることにしよう。