「大阪局の”ベタなつくり”が悪いほうに…」ドラマづくりのプロが分析する朝ドラ『おむすび』の行方
それに比べてB制は、「起業」「創業」「開発」「発明」など生業や商売に関わる職業が多い。そしてイメージとして、A制のラインナップより「女性エンパワメント」色が濃厚である。これらの傾向からは、関東・関西という地域の特性もさることながら、それぞれが特徴を出せるように「A制=主人公像よりテーマ」「B制=テーマより主人公像」という差別化をおこなっていることが伺える。 どうしても大阪局のB制は、その年度の前期のA制を意識せざるを得ない。 そういう意味で「先攻後攻」の「後攻」のようなところがあるため、A制の「裏」を狙ってゆくか、もしくは前述したような「朝ドラ初」といった話題性で差別化するという作戦に出ることになる。 そう考えると、前作の『虎に翼』があれだけ憲法の基本的人権や平等といった、日本国が国際社会において向き合わなければならないテーマを真っ向から扱った作品であったがゆえに、その裏となると少し〝緩め〟のある種「息抜きの清涼剤」となるような作品をラインナップしてくるのは、真っ当な戦略であると言えるだろう。 だから、ネットなどの論考で今回の『おむすび』の主人公はキャラが立ってないという批評を受けてしまうのである。また、第108作、第109作、第110作と3作品続けて実在の人物をモデルとした作品が続いたため、このあたりでオリジナルキャラで勝負したいという作り手の意気込みもあったと思われる。 最後に、「今後の挽回は期待できるのか」という点に関しては、今回はB制が得意とする「朝ドラ史上初」といったような仕掛けがない、いわば「地味線」という点で、かなりの苦戦を強いられると私は見ている。だが、逆の見方をすれば、そんな『おむすび』がこのあと盛り上がり、社会現象を巻き起こすようなドラマに化けたら、それこそ「朝ドラ史上初の快挙」となるのではないだろうか。 文:田淵俊彦 桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授。’64年兵庫県生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、テレビ東京に入社。世界各地の秘境を訪ねるドキュメンタリーを手掛けて、訪れた国は100ヵ国以上。一方、社会派ドキュメンタリーの制作も意欲的に行い、「連合赤軍」「高齢初犯」「ストーカー加害者」などの難題にも挑む。ドラマのプロデュース作品も数多い。’23年3月にテレビ東京を退社。著書に『混沌時代の新・テレビ論』『弱者の勝利学 不利な条件を強みに変える〝テレ東流〟逆転発想の秘密』『発達障害と少年犯罪』『ストーカー加害者 私から、逃げてください』『秘境に学ぶ幸せのかたち』など。日本文藝家協会正会員、日本映像学会正会員、芸術科学会正会員、日本フードサービス学会正会員。映像を通じてさまざまな情報発信をする、株式会社35プロデュースを設立した。 https://35produce.com/
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