「大阪局の”ベタなつくり”が悪いほうに…」ドラマづくりのプロが分析する朝ドラ『おむすび』の行方
チャレンジや冒険が多い「大阪制作」
以上に実例を挙げたように、B制である大阪局が制作する際には、さまざまなチャレンジや冒険をするケースが多い。 第69作の『てるてる家族』ではセリフがいきなり歌になるというミュージカル仕立ての演出がおこなわれた。第91作『マッサン』では、朝ドラ史上初めてヒロインに外国人俳優(シャーロット・ケイト・フォックス)を起用し、第99作の『まんぷく』では朝ドラ史上初の「ママさんヒロイン」(安藤サクラ)を抜擢した。第105作の『カムカムエヴリバディ』では朝ドラ最年長のヒロイン(深津絵里)を登場させ、時代ごとに違ったヒロインが3人登場するという試みも朝ドラ史上初であった。 このように何かと大阪局は話題を作りたがる。そこにはA制である東京局を意識してライバル視せざるを得ないという現実がある。そして、どうしても当たり外れが多いという結果を招いてしまうのだ。 番組の内容面においては多くの論者がサイトなどで指摘しているので、せっかくこの記事を読んでくれている読者のために、ここからはちょっと違った視座から朝ドラを分析し、それによって「A制⇔B制」という構造が生み出す功罪と今回の『おむすび』の特徴を浮き彫りにしてゆく。 特に、前述した2つのポイントのうちの「主人公像」に着目し、過去10年間の比較をおこなってみたい。 10年間の20作品中、実在の人物をモデルにしているのは半分の10作品だが、そのうち7作品が大阪局のB制である。しかもそれは、第93作の’15年から第103作の’20年まで6年もの間、連続している。 ◆〝ふわっとした感じ〟の女性像が多い東京制作、「女性エンパワメント」色が濃厚な大阪制作 次に、「主人公像」を洗い出してみると、A制は放送順に「パティシエ、雑誌編集者、出稼ぎ女性、障害を抱える女性、女性アニメーター、作家とその妻、気象予報士、沖縄料理に夢をかける女性、植物学者、裁判官」で、B制も同じく放送順に「女性起業家、子ども服メーカー創業者、寄席経営者、カップ麺を開発する女性、女性陶芸家、女優、ラジオ英語講座とジャズと時代劇と共に生きた母娘孫三代、町工場の起業家、歌手、栄養士」となる。 この傾向を分析してみると、A制は全体的に〝ふわっとした感じの〟女性像が並んでいる印象だ。ここからは、「障害者」や「出稼ぎ」「沖縄問題」「憲法」などの社会的なテーマをうまく織り込めるように、あまり個性が強い主人公というよりテーマが生きるような主人公像を心がけていることが読み取れる。