「名門音大への合格者は事前に決まっている。それが音楽世界の常識」と噓をつき、間接的な金銭要求、ハラスメントと「やりたい放題」の「ヤバすぎるピアノ講師」の実態
“上の先生”への“ご挨拶”
今回取材した限りではあるが、かつてはそうした風潮はたしかにあった、でも、今ではそれも随分と薄れてきたというのが、年齢を問わないピアノ講師たち何人かの声だった。 驚く父親、母親が、「もう少しわかりやすく教えてください」と問うと、またも彼女は間髪入れず、こう応えている。 「本気で音大や音高に入るなら、何年も前から“上の先生”に“ご挨拶”をして、それから“確約”を頂くのが常識です。思いついて受験して合格する……、そんな甘い世界ではありません」 一見、はっきりとした物言いにみえる彼女の言葉だが、落ち着いて考えるとちょっとわかりづらい。何を意味するのか。界隈の住民たち何人かに訊いた。 まず“上の先生”とは、これは当のピアノ講師からみて自分の師匠筋にあたる講師、もしくは音大(音高)に籍を置く講師のことを指す。 次の“ご挨拶”は、ずばり現金だ。最近では、この代用として百貨店の商品券、クオカードなども可だとか。一般に3000円から5000円程度の菓子折りのなかに、「ご挨拶」として現金などを包んでおくのが礼儀だという。 その額は、芸術大学、音楽大学への合格であれば“上の先生”には10万円程度。この取次をしてくれた先生には2万円から5万円程度が相場なのだとか。 銀行振込ではなく、かならず現金、封筒に入れて新札で渡すのが、界隈での常識だそう。節税目的もそこにはあるのかもしれない。
「入学の確約」はあるのか
最後の“確約”は、受験を考えている学校(大学や高校)の教員らから、「もうあとは当日、受験さえして頂ければ……」と、入試前に合格させるという確実な約束――、まさに“確約”だ。 これらの話を、音楽界隈で聞くと、多くの人がにっこり微笑み、口を噤む。 そうしたなかでどうにか聞き出した話を纏めると、そもそも昔も、今も、国公立の音大や音高の入試は、極めて公平無私、厳格な試験の基準があり、そこに不正が入り込む余地はない。 ただし、音大や音高の関係者やそれに近い筋……、たとえば専任、常勤ではない非常勤講師が関係者とすれば、その関係者と師匠を同じくする門下繋がりといわれるそれといった人脈に連なる人たちが、さも音大(音高)の合格を左右する権限を持っているように振る舞い、それこそ高3、高2といった学年に何度かレッスンを行い、「君、大丈夫。合格できる」「君は無理」と判断することは、今の時代もなくはないという。 どうやら、この入学試験の合否に何の関係もない者による、合否予想が「入学の確約」となっているようだ。 性質が悪いのは、この合否予想が結構高い精度で当たることである。一応、プロの演奏家、ピアノ講師である。音大(音高)に合格できる、できないの見分けは、やはりつくものなのだろう。 これまでもトラブルがないとはいわないが、そもそも音大や音高受験人数が極めて少ないことから、誰もが「おかしいな」とは思うのものの喉元過ぎれば何とやら自分のところに火の粉が降ってくる訳でもなければ、取り立てて問題視することなく、今日に至ってしまったというのが率直なところではなかろうか。