家族で乗れる旧車が欲しかった! 自分で手直しして楽しむフェアレディZ 2by2! 【ヒストリックカーヘリテイジカーミーティングTTCM in 足利】
今でこそS30フェアレディZはどのモデルでも人気が高く中古車価格も高騰している。ところが10年ほど前までは排ガス規制車のNAPSエンジン仕様や4人乗りの2by2は人気が低かった。それなのに憧れ続け、ようやく手に入れた人を紹介しよう。 【写真】フェアレディZ 2by2の詳細を見る PHOTO&REPORT●増田 満(MASUDA Mitsuru) 初代フェアレディZは日本国内だけでなく海外、特にアメリカで大ヒットを記録した国産スポーツカーの代表的存在。ロングノーズ・ショートデッキの古典的スタイルに直列6気筒エンジンを搭載する2シータースポーツとして、優れた走行性能により人気モデルとなった。国内では2リッターエンジンでスタートするが、海外へは2.4リッターの240Zが輸出された。比較的低価格で販売されたため従来までアメリカで人気だったイギリス製スポーツカーを駆逐してしまい、ポルシェの市場にまで影響を及ぼした。手頃ながらも本格的なスポーツカーが味わえたことで「Zカー(ゼィーカー)」の愛称で親しまれたのだ。 国内では1969年10月から2リッター6気筒エンジンでスタートするが、そのエンジンは2種類がラインナップされていた。セドリックなどに搭載されたSOHCのL20型と、スカイラインGT-Rに搭載されたDOHCのS20型だ。L20搭載車はベースグレードのZと装備を充実させたZ-Lを名乗り、S20搭載車は4バルブ・3キャブレター・2カムシャフトからZ432と名付けられた。その後は仕様変更を繰り返し、3速AT車やレギュラーガソリン仕様などを追加。71年には輸出仕様だった240Zが国内でも発売される。240Zはレースでの成績が優秀だったこともあり、Z432に取って代わる。 続く73年のマイナーチェンジでZ432と240Zの販売が中止され、翌年には要望の多かったリヤシートを備える2by2が追加されている。4人乗りとするために全長が伸ばされ、ドアも大型化。一般的に+2的なスポーツモデルはリヤシートに長時間乗れたものではないが、2by2では実用的なサイズを実現していた。もっとも狭いことに変わりはないのだが。 その後は排出ガス規制への適合を繰り返して吸気系をキャブレターからインジェクションへ変更。ニッサン・アンチ・ポリューション・システム、略してNAPSと名付けられた排ガス対策車は76年になると排気ガス環流装置であるEGRを追加する。この時から型式がS30、GS30(2by2)からS31、GS31へと変更された。この時のエンジンは高回転まで回らない仕様だったこともあり、スポーツカーに相応しい運動性能とは呼べなかった。そのため78年に2代目であるS130へフルモデルチェンジした後の中古車市場では初期型に比べて安値だった。 80年代になるとチューニングブームが到来したこともあって、規制前のモデルに人気が集中する。激しいチューニングを施すならボディ剛性が引き上げられた後期型のS31が適していたが、やはり初期型のスポーツイメージは強かった。エンジンそのものはL型の最大排気量となるL28型に載せ換えることが主流になる。さらにピストンやクランクなどを純正パーツの中から流用することで3リッターにまで排気量を拡大できたことから、最高速アタックやドラッグレースでも人気モデルとなった。 そんな時代だったのでNAPS仕様や2by2は見向きもされなかった。多くの個体が部品取りにされたり解体されていったため現存する個体は非常に少ない。一部の愛好家がその当時から乗り続けているようなケースがほとんどで、令和の今に中古車として出回ることは少ないのが現実。ところが、10月13日に栃木県足利市で開催されたイベント「ヒストリックカーヘリテイジカーミーティングTTCM」の会場で、珍しい2by2が展示されていた。 実は2by2と対面する直前まで、前回記事にしたホンダS600とそのオーナーを取材していた。取材を続けるうち話の場に加わってくれたのが平野雅人さん。なんでもS600を所有しているためだそうで、「今日もエスで来られたのですか」と聞けば「今日はツーバイツーです」との答え。これまで取材する機会の少ないフェアレディZ 2by2であるなら是非ともと取材をお願いすることなった。 現在50歳になる平野さんは若い頃に旧車ブームが盛り上がったこともあり、長く国産旧車が趣味の対象だった。そのためホンダS600を所有することになったわけだが、エスは完全な2人乗りのオープンカー。家族が一緒に乗ってくれる機会は少なく、以前から家族を乗せることができる旧車を探していたのだ。家族と乗りたいからといって、スポーツカー好きな平野さんだからセダンなどは選ばない。白羽の矢を立てたのが初代フェアレディZの2by2だったのだ。 とはいえ前述のように2by2の売り物は少なく、あったとしても価格と程度が釣り合っていなかったり、そのまま乗ることのできる状態ではないものばかり。長年探し続けてきたが、なんと半年ほど前の2024年の春にインターネットオークションで見つけたのが現車だった。見る限りボディの程度は良く車検も残っていてすぐに乗り出せる状態。長年探してきた条件にピタリと合うため、念願を叶えることができたのだ。 ところが乗り出してみるとトラブルが続出する。ある時運転していると、どうにもガソリン臭い。ボンネットを開けてエンジンルームを確認すると、燃料ホースからガソリンが漏れていた。しかも垂れる程度ではなく噴出するように漏れている。これは危険と帰宅して燃料ホースを総交換することになった。これで安心かと思いきや、またも運転中に煙が上がる。ウインカーを出した瞬間のことで、どうしたものかと確認するとヒューズが切れるし漏電している様子。前オーナーがハーネスを自己流に改造していたためで、旧車アルアルではある。これまた自分でハーネスを手直ししてトラブルを乗り切ることとった。 そこまでしてでも乗り続けたいと思うほど、平野さんは2by2に入れ込んでいる。入れ込みようを裏付けるエピソードを最後に紹介したい。まだまだ納得できる2by2が見つからなかった頃、フェアレディZ432の純正マグネシウムホイールと同じデザインで発売された古いブリヂストンのzonaというアルミホイールを見つけてしまう。いずれ2by2を買った暁に履かせたいと思い、クルマが見つかるかどうか全く読めない状況であるにも関わらずホイールだけ手に入れてしまった。絶対に乗るんだという思いが伝わってくるエピソードであり、ここまでの思い込みがなければ数少ないマイナーな国産旧車に乗ることは難しいのだと感じられた。
増田満
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