今、修学旅行に何が起きているのか? オーバーツーリズムの影響から、海外の旅費高騰まで、最新事情を整理した【コラム】
貸し切りバスの確保が難しい
第3は、ドライバーの不足やいわゆる「2024年問題」に関わる貸し切りバスの手配の問題です。 貸し切りバスの運賃については、国土交通省により2025年度からの下限額の引き上げが示されていて、修学旅行費用が上がってしまう要因の一つになっていますが、貸し切りバスの確保そのものが難しくなっていることも深刻な問題です。 メディアにも取り上げられ話題になりましたが、予約していたにもかかわらず貸し切りバスが手配できなかったため交通機関や行程を変更しなければならない、といったケースが今後も出てくるかも知れません。特に、高校の修学旅行先で一番人気の沖縄では、移動に貸し切りバスを利用することが欠かせないのですが、これが手配できないとなると、沖縄への修学旅行そのものを諦めざるを得ない、ということにもなってしまいます。これまで学校は、旅行費用の高騰への対応として宿泊日数を減らしたり、宿泊費を抑えるために民泊をとり入れたりするなど、いろいろと工夫して沖縄修学旅行を実施してきましたが、貸し切りバスの問題はどうにもなりません。 また、「2024年問題」では、ドライバーが一日の休息期間を継続して11時間取ることが基本(下限は9時間)となったため、夜間のプログラムの実施が難しくなってしまいました。たとえば、これまでは東京に来る東北地方の中学校が、ミュージカルや演劇を夜間に鑑賞することが多くあったのですが、ホテルと劇場などとの往復に貸し切りバスを使うと、翌朝の出発時刻までの間にドライバーの休息期間を確保できなくなってしまうため、別のドライバーを用意しなければならなくなりました。これもまた、旅行費用に響いてくることになります。
オーバーツーリズムも修学旅行に影響
中学校の修学旅行先で一番人気の京都ですが、ここではオーバーツーリズムが大きな問題になっています。 多くの学校は、京都市内での班別自主行動を行程に取り入れています。生徒たちは、事前学習で班ごとにテーマを決め、それに沿った行動計画を立て、訪問する場所について調べたうえで班別行動をスタートさせます。京都市内では、路線網が充実している市バスを利用することが多いのですが、バス停で待っていても市バスはいつも観光客で満員。バス停を通過していってしまい、せっかく立てた計画が役に立たなくなったり、全体の集合時刻に遅れてしまったり、ということが起きています。 貸し切りタクシーを利用する学校もありますが、これも先に述べたドライバーの不足によって必要な台数を確保することが難しくなっています。班別自主行動こそ「主体的な学び」につながる活動だと思うのですが、これが計画通りに進められないと学校のねらいも達成できないことになってしまいます。 また、外国人観光客の急な増加が、ホテルや旅館の宿泊費を引上げてしまっているということも問題になっています。 コロナ禍の中で修学旅行の価値が再認識されたこと、同じ時期に現行の学習指導要領が実施され「探究的な学習」の実践が学校に求められたこと、これによって最近の修学旅行は、さまざまな体験活動を通しての「学び」を重視するようになってきています。その「学び」の多くは、他の教育活動ではなかなか得られないものと考えます。 明治時代以来、現在に至るまで続けられてきた修学旅行は、学校の教育活動として根付いてきた「日本独自の教育文化」であるといわれています。修学旅行が、これからも「学びの旅」として実施され続けていくために、学校だけでなく行政や当協会を含む関係諸機関など社会全体が連携・協力して、修学旅行が現在直面している諸問題の解決に向けた対策を進めていただくことを心から願っています。 次回のコラムでは、修学旅行で実施される農山漁村民泊や探究学習に関わる新しい教育旅行のプログラムについて考察していきます。 記事:竹内秀一(たけうち しゅういち) (公財)日本修学旅行協会理事長。東京教育大学文学部史学科(日本史専攻)卒業。神奈川県立、東京都立の高等学校教諭(いずれも日本史担当)、都立高等学校副校長を経て都立高等学校長。東京都歴史教育研究会会長、全国歴史教育研究協議会副会長。昨年度まで順天堂大学国際教養学部の非常勤講師として教職課程担当。
トラベルボイス編集部