「帰りたくない!」と泣き叫ぶ妻…〈年金35万円・貯金5,000万円〉60代の仲良し夫婦、念願の“海外移住”で老後を謳歌も…たった4年で涙の帰国のワケ【FPが解説】
池野さん夫婦の根本的な問題点
現在、池野さん夫婦はFPのもとで今後日本で生活するためのマネープランの立て直しを図っています。 池野さん夫婦の移住が失敗に終わった原因は、アメリカの物価上昇と円安に対して、マネープランニングをする際に見込んでいなかったことにあります。日本で暮らしていれば原則公的年金は物価に連動し上昇してくれますし、為替の影響がそのままダイレクトに生活費に出るわけではありません。 物価の上昇と円安により夫妻の家計収支は急激に悪化しました。公的年金は円建ての金額で給付されるため、円安になるということは、ドル換算した年金収入が大幅に減少することを意味します。 池野さんの場合、35万円前後の公的年金を受け取っていても、1ドル=110円のときは約3,181ドルですが、1ドル=145円程度まで円安になると約2,414ドルと、年金収入が25%以上も減額されていることになります。 また同時に、ドル建てでの物価水準も池野さんが移住してから1.2倍程度になっており、ドル建てでの収入は減っているのに物価が上がっています。ドルに移したのは5,000万円のうち1,500万円程度で、残りは日本円で保有し、生活費等も日本のクレジットカードなどで支払っていたのでした。 そのため、今後円安が進むと個人年金資産の商品も価値が目減りしてしまうため、移住からわずか4年で資産が1,000万円以上減ってしまう事態となったのでした。 帰国せずにそのままアメリカでの生活を続け、インフレが続くと、日本も同程度以上のインフレにならなければ生活費の赤字は膨らむ一方です。 日本ではゆとりの老後でも、現在のアメリカでは生活していくことが難しい程度になってしまいます。 アメリカ移住するなら… 今回の池野さんの問題点は、日本とアメリカのインフレ率や、為替を考えず、アメリカに生活の拠点を移す予定だったにもかかわらず、日本円で資産の大部分を持っていたことにあります。 アメリカで生活するのでしたら、基本的に資産はドルで保有すべきでしょう。預金をドルで保有しつつ、一部を投資信託などで運用しながら物価上昇に対応できるように運用していくというのが望ましいといえます。 また、日本とアメリカの物価上昇率の違いも加味しなければならないポイントで、日本は近年インフレと呼べる状態になってきましたが、過去25年程度物価が下がりお金の価値が下がる、「デフレ」と呼ばれる状態で、物価上昇のことを考えるという視点がなかったのでしょう。 それから、日本の公的年金は日本の物価上昇にはある程度対応していますが、アメリカの物価水準や円安に対応している訳ではありません。そのため、他国で生活しようと思ったら為替やインフレで目減りしてしまう可能性があります。 アメリカ国内に資産の大部分を移し、投資による利益を得る計画や、なにかしらの収入を得る手段を持ち、そうしたリスクにも対応できる対策も必要だったといえます。