保守派の国際的「知の拠点」を目指すハンガリー
保守系シンクタンクとトランプ陣営にも入り込む
オルバーン政権は、ハンガリーの政府系シンクタンクと米国の保守系シンクタンクとの積極的なネットワーキングも推進している。ハンガリーの保守思想外交の動向を追う識者たちは、基本的人権センターと同じく2013年に設立されたハンガリーの政府系シンクタンク「ドナウ研究所(Danube Institute)」と、米国の保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」との連携に注目している。ドナウ研究所は、2022年にヘリテージ財団のケビン・ロバーツ会長をブダペストに迎え、地政学に関する年次国際会議を共催するとともに、ハンガリーの政策に関する研究促進を目的とした客員研究員受け入れを行う協力協定を締結した。 こうした協力に関してオルバーン首相は、「(ハンガリーはヘリテージ財団において)名誉ある地位を占めている」と述べるなど、両シンクタンクの密接な関係性やハンガリーの保守的価値観が米国の保守層で高く評価されていることを強調している12。実際、ヘリテージ財団のロバーツ会長は、オルバーン首相のリーダーシップを「保守政治のモデル」と賞賛し13、2024年3月にオルバーン首相がトランプ前大統領との会談を実施するに先立ち、ヘリテージ財団はオルバーン首相を招待し、ロバーツ会長とのパネルディスカッションを実施した14。米CBSテレビや英ガーディアン紙のレポーターであるフローラ・ガランヴルジは、ドナウ研究所は「外国の保守派知識人との協力を通じて、オルバーンのハンガリーの文化的に保守的なビジョンを推進する上で重要な役割を果たしてきた」と評した15。 保守系シンクタンクへの働きかけは、ヘリテージ財団以外にも広がりを見せている。その一例として、第二次トランプ政権下で複数の幹部の入閣が予定されている「アメリカ・ファースト政策研究所(AFPI)」へのアプローチが挙げられる。前述のハンガリー基本的人権センターは、グローバリストに対抗する保守的な人材ネットワークの構築を目指し、「ウォークバスターズ・イニシアティブ(Wokebusters initiative16)」という新たな取り組みを推進している。この活動の一環として、2024年9月にはAFPI国土安全保障・移民センター所長のロバート・ローがハンガリーへ招待され、滞在中には初回会合に参加するとともに、保守系メディア「ハンガリアン・コンサーバティブ(Hungarian Conservative)」からのインタビューにも応じた17。ロバート所長は、3月にも同センターによってハンガリーへ招待されており、その際にはハンガリーとセルビアの国境視察を行い、政府関係者と面会したほか、国境警備に関するイベントで講演を行っていた18。 さらには、オルバーン政権による影響力強化の試みは、国際会議の主催やシンクタンクとの連携にとどまらず、トランプ陣営の中枢への積極的なアプローチにも及んでいる。オルバーン首相は「トランプ大統領チームの政策立案システムに入り込んだ」19と自負しており、米CBSテレビや仏ル・モンド紙によれば、オルバーン・バラージュ政治担当首相補佐官がこの接触において中心的な役割を果たしているとワシントンでも認識されているという。 2023年4月には、オルバーン・バラージュ補佐官が、のちにトランプ陣営の副大統領候補となるJ・D・バンス上院議員との面会を実現し、ヴァンス副大統領候補を「ハンガリーの良き友人」20と称賛したことにより、両者の緊密な関係が浮き彫りになった。その後2024年5月には、ヴァンス上院議員も「(オルバーンの政策は)アメリカも見習うべき賢明なものだ」と評価した21。欧米の多くの国がヴァンス次期副大統領との接触を模索している段階にある中で、ハンガリー政府とトランプ次期政権との密接な関係は特筆に値する。